+++ 七夕にて +++ 「ただーいまー」  テマリ、カンクロウ、我愛羅、バキの四人が任務から帰って来た。  テーブルに向かって何やら作業らしき事をしていたハヤテは、テマリの声に顔を上げる。 「あ、お帰りなさい」 「……何やってんの」 「艦長、左舷、弾幕甘くありません」 「………わかる人が少ないネタはやめた方がいいと思うよ」 「そうですね」 「それより、これ、何」  と、テマリが指差したものは。  笹。  何故か、このリビングルームに笹があるのだ。 「……何で笹があるんだよ?」 「今日、七夕ですよ」 「……ああ、そういえばそうだっけ」 「だから、これ」  と、ハヤテは手にしている紙切れをテマリの目の前に差し伸べた。  それは、色紙を切って作った短冊だった。 「願い事、書きなさい」  書きましょう、ではなく書きなさい、だ。  何故か、命令形だ。 「願い事ー?」 「テマリさんはイカとタコが食べられるようになりますように、でいいじゃないですか」 「何だよソレ!」 「ホラ、カンクロウくんと我愛羅くんも。ついでにアンタも」  と、ハヤテは短冊をカンクロウと我愛羅とバキにも渡す。 「……もしかして……いや、もしかしなくても……」 「ん?」 「ハヤテさん、暇なのか?」 「ええ、そりゃもう」  カンクロウの言葉に、何故かハヤテは胸を張って自信満々に答える。  確かに、ハヤテの目の前には色紙を切って作ったと思われる短冊が、大量にあった。  恐らくは、全てハヤテが作ったのだろう。  それは、暇が成せる業だ。 「カンクロウくんはほうれん草が食べれるようになりますように、でいいですよね」 「勝手に決めんなー!」 「我愛羅くんは……羊羹とマロングラッセが食べれるようになりますように、で」 「……ハヤテが、そう言うなら……」 「「「オイオイオイオイ」」」  我愛羅の言葉に、テマリとカンクロウとバキが同時にツッコミの言葉を入れる。 「バッキーは勿論、馬刺しが食べれるようになりますように、ですよね」 「何故そうなる」 「30にもなって食べられないものがあるなんて情け無いですよ?」 「お前だってあるだろう、食べられないものぐらい」 「んー? ………………そういえば、別に無いですねぇ」 「「「マジでか」」」  一人短冊に願い事を書いている我愛羅以外の三人が、再び同時にツッコミの言葉を入れる。 「……先生、何書いてんの」  結局、全員が短冊に願い事を書く事にした。  ふと、テマリが書き終わったらしいバキの短冊を覗き込んでそう呟いた。 「俺の願い事だ」 「…………ハヤテさん、ハヤテさん。先生の短冊、見てみなよコレ」  バキの手から短冊を奪い取り、テマリはそれをハヤテに見せる。  その短冊には    “ハヤテが幸せであるように”  と、かなりの達筆で書かれていた。 「……へえ……アンタ、結構達筆ですねぇ」  バキが書いた短冊をまじまじと眺めながら、ハヤテは関心したように言う。 「そっちかい」  関心するところが違う、とテマリはハヤテの言葉に、ツッコミの言葉を入れる。 「てゆーか、アンタ何て事願ってるんですか」 「悪いのか」  ハヤテの言葉に、バキは即答する。 「悪いってゆーか……私は充分幸せですけどね」 「「「「!?」」」」  斬り付けられて攫われてきたというのに?  ハヤテの暢気とも言える台詞に、ハヤテ以外の四人が意外そうに顔を上げた。 「ん? 何て顔してるんですか、皆さん」 「……ほ、ホントーに、ハヤテさん、幸せなのか?」 「そうですね。この里にいれば働かなくても生活して行けますし」 「…………そういうコト…………」  ハヤテの言葉に、テマリは納得したようにこくこくと頷いた。  カンクロウと我愛羅も納得した様子。  一人、釈然としないのはバキだ。 「どういう意味だ。それではまるで俺はお前の金ヅルみたいじゃないか」 「事実、金ヅルじゃないですか」 「……そうか、お前は俺の事をそういう風に見てたのか……」 「あれ。知らなかったんですか」 「………いいんだ、いいんだ……どうせ俺なんか……俺なんか……」  いじけ、今にも膝を抱えて部屋の隅で丸くなりそうなバキ。  それを見て、やはりいつも通り嘲笑しているハヤテ。  と、その時だった。  にゃあ、と猫の鳴き声が足元から聞こえた。  皆が足元を見下ろすと、其処には黒い仔猫がちょこんと座っていた。  ハヤテの飼い猫兼忍猫の、紫苑だ。 「紫苑?」  ハヤテが名を呼ぶと、紫苑は返事するようににゃあと再び鳴いた。  そして、ぴょんと飛び跳ねるとハヤテの膝の上に乗り、其処から再び飛び上がってテーブルの上に立った。  次に紫苑は、ハヤテが作ったと思われる色紙で作った短冊を一枚銜える。 「……お前も、願い事書きたいんですか」  ハヤテの言葉に、頷くようににゃあと鳴く紫苑。  自信に溢れた声だ。 「はい」  と、ハヤテは自分が持っているペンを紫苑に差し伸べる。  すると、紫苑は銜えていた短冊をテーブルの上に置くと、ペンを銜える。  何をするのかと思えば、紫苑は銜えたペンで、短冊に何やら書き始めた。 「……嘘ぉ」  ミミズが走ったような字かと思いきや、紫苑の字はきちんとした字になっている。  そして、紫苑が書いた「願い事」は……  “ハヤテ大好き”  と、書いてあった。 「お前は可愛い事書きますねぇ」  にゃあ。  ハヤテに喉を撫でられ、紫苑は気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らしながら目を細める。  ハヤテに撫でられながら、紫苑はちらりとバキの方を見た。  勝ち誇ったような目をしている。  すると。  何やら、バキは再びペンと新しい短冊を持つと何やら書き始めた。 「……何書いてん…………うっ」  と、テマリが覗き込み、バキが書いた文字を見て絶句した。  絶句したまま首を回し、その短冊を指差す。  その指の先を、二人の弟とハヤテが覗き見る。  そして、その短冊には、  “ハヤテ愛してる”  と、かなりの達筆で書かれてあった。  紫苑に負けじと書いた事が垣間見えた。 「…………うわ……っ、キモ…………っ」  心の底からしみじみと、ハヤテは呟いた。  その通りだ、と言わんばかりにハヤテの腕の中の紫苑もにゃあと鳴いた。  紫苑が何て言っているのかはわからないが、その時の紫苑が言いたかった事は何となくわかったような気がして、バキは紫苑を睨んだ。  だが、紫苑は知らん顔をしてハヤテの膝の上で丸まった。 「どうせ俺はキモい男だ。どうせ俺はお前の金ヅルだ。どうせ俺は30にもなって馬刺しが食えない男だ! 悪いか!」 「悪い」  バキの言葉に、ハヤテは即答する。  その速さに、再びバキは傷付いた。 「…………あ」  壁に掛けられたカレンダーを見て、ハヤテは不意にぽつりと呟いた。 「そういえば、アンタの誕生日……4日でしたっけね」 「ん? あ、ああ…そういえばそうだっけな……」 「自分の誕生日を忘れたんですか」 「何かと忙しくてな。それにこの年にもなって誕生日を祝うわけには……」 「そうですよねぇ。祝ってくれる相手もいないのに」 「……其処までハッキリ言うか……」 「一句できました………『年齢が 彼女いない暦 三十路過ぎ』………」 「ハヤテさーん…お願いだから先生を苛めないであげてよ……見てて可哀想になってきた」  ハヤテに言い様に言われて何も反論できていないバキを心底同情したらしく、テマリがそう言う。  テマリの、バキを見る目はもう可哀想なものを見る目だ。  まるで、子供達に苛められている亀を助ける浦島太郎の如し。 「15歳も年下の少女に同情されるなんてアンタも憐れですね」  だが、同情するテマリの言葉もバキを苛める道具に使う。  これぞ腹黒の中の腹黒。 「お前が言い出したんだからな。何かプレゼントでもくれるのか」 「じゃあ、今日一日何でも言う事聞いてあげますよ」 「………マジでか」 「ええ。それが一番労力と金使いませんからね」 「…………」 「ん? 何も無いんですか?」 「一発ヤらせろ」 「あ。一回でいいんですね」 「…………マジでか」 「あ、嫌なら別にいいですよ」 「嫌じゃない。今からそのプレゼント貰うぞ」  と、バキは立ち上がってハヤテの腕を掴むと、そのまま寝室に入り込んだ。  数分後。  その部屋から、ハヤテだけが出てきた。 「あれ。もう終ったの?」 「ええ」  テマリの言葉に、ハヤテはにこやかに答える。  ちらりと、テマリが開いている部屋の扉の隙間から、部屋の中を見てみると。  部屋の中では、ベッドの上にバキがうつ伏せで倒れていた。  眠っているのだろう。 「………ハヤテさん、まさか…………」 「疲れ果てて眠ってしまったんでしょう。本当にだらしない男ですよね」 「……ハヤテさんが、眠らせたんでしょ」 「あれっ、バレましたか」 「そりゃあねぇ……」 「いい事をした後は気持ちいいものですねぇ」 「……いい事?」  ちら、と再びテマリは部屋の中を覗き見る。  紫苑が、眠っているバキを突付いている。 「紫苑、今日からソレはお前の遊び道具です。好きなだけソレで遊びなさい」  部屋の中の紫苑に向かって、ハヤテはそう声をかけた。  すると、紫苑はにゃあと返事をしながらも、バキを突付いた。  色々な意味で、バキにとっては思い出に残る七夕と、誕生日祝いとなった。 〜終〜