+++ 9月15日〜理由〜 +++  9月15日水曜日。  空に雲は無く、晴れていた。  エリート上忍、はたけカカシは、愛しの中忍、 うみのイルカと約束したデートの待ち合わせの場所である、一楽へと向かっていた。  かなり上機嫌で、鼻歌混じりである。  つい昨日まで任務が立て続けに入っており、なかなかイルカと逢えなかったのだ。  約一週間ぶりにイルカ先生に逢える!  そう思うと、自然と鼻歌が出てくるのだ。  歓楽街を通り、甘味処の前を過ぎようとした。  甘味処は、一種のデートスポットである。  今、この時間でも何組ものカップルが甘い時間を過ごしていた。  照れているのかそれともこの想いに気付いていないのか。  イルカとは、あまりラブラブできずに欲求不満でいるカカシは、 甘味処の店内で甘い時間を過ごしているカップル達を、恨めしそうに睨んだ。  お互いが頼んだ甘味を、食べさせあっている。  そんな事するなら器ごと交換してそれぞれが食べればいいのに…などと思っていると。 「ハイ、どうぞ」 「あ〜ん」  一際目立つカップル…否、バカップルが目に入ってきた。  他のカップル達とは比べ物にならない程の甘さ。  カップルが過ごしている甘い一時に慣れている、甘味処の店員でさえ目のやり場に困る程のバカップルぶり。  しかも、男同士で、だ。  よく見てみれば、そのバカップルは、特別上忍の不知火ゲンマと、月光ハヤテの二人だった。  ハヤテは、自分が頼んだらしい白玉クリーム餡蜜を、ゲンマに食べさせている。 「じゃ、こっちもホラ」  と、今度はゲンマが自分が頼んだらしいカボチャプリンを、ハヤテに食べさせている。 「……バカップルだ……」  カカシが思わず呟くと、二人は漸くカカシに気付いたような顔をして顔を上げた。 「あ、カカシ」「カカシさん…」 「昼間っからラブラブイチャイチャしちゃって…」 「羨ましいだろ〜」  そう言いながら、ゲンマはハヤテの肩を抱き寄せる。  抱き寄せられたハヤテは、あまり照れもせずにゲンマの肩に寄り掛かる。 「別に。俺はこれからイルカ先生とラブラブ三昧するんだから」 「デートですか」  カカシの言葉に、ハヤテが訊ねる。 「うん、そう」 「どうせ一楽でラーメン食って終わりだろ。しかも、あのイルカの事だ。ナルトとかいう九尾のガキも一緒じゃねぇの?」  ゲンマに図星を指され、カカシの表情は強張った。 「折角久し振りにイルカ先生と二人きりになれると思ったのに…ナルトも一緒かも知れないという事を忘れてたー!!」 「で、でも、カカシさんとイルカくんとナルトくんが一緒だと、夫婦みたいに見えるかも知れませんよね」  フォローのつもりだろうか。  ハヤテは、少し慌ててそう言った。  それを聞いた途端、カカシの表情は明るくなる。  フォローの言葉を言うハヤテの隣で 「見えない、見えない」 などと言って笑って手を振っているゲンマの姿も、目に入らなかった。 「…あ」不意に、ハヤテが声を上げた。 「ん?」「どうした?」 「ゲンマさん……」  何かに気付いたように、ハヤテは隣にいるゲンマの服の裾を引っ張り、彼の耳元で何か囁いた。 「え…っ、マジで?」 「ええ、確か、そうだった筈です」 「うわ、そうだっけ。やべ」 「何、どうしたの」  何だか、急に慌てているゲンハヤの二人。  カカシは少し不安になりながら、そう声をかけた。  だが、二人はカカシの言葉には返事せずに、店の奥に入っていった。  そして、数分後出てきた。  二人とも、それぞれ紙袋を持っている。 「これ、どうぞ」 「ホレ」  と、ハヤテとゲンマはその紙袋を、カカシの前に差し出してきた。  甘栗の袋だ。 「甘栗……」 「今日、カカシさんのお誕生日ですよね。おめでとうございます」 「…あ。そうだっけ」  ハヤテの言葉に、カカシは今日が自分の誕生日だと言う事を思い出した。 「自分の誕生日ぐらい覚えておけよ。ホレ、ありがたく受け取れ」  ハヤテとゲンマから、甘栗の袋を受け取る。  つい今さっき思い出したから手近にあるもので済ました、という感じだったが、カカシは何も言わなかった。  もしゲンマしかいなかったら、確実に文句言っていただろうが。 「有り難く受け取っておくよ。…あっ、もうこんな時間」  気付けば、空は少しだけ赤くなっていた。  約束の時間に遅れてしまう。  甘栗の袋を二つ持ったまま、カカシは一楽へと向かって少し足を速めた。 「あー! カカシ先生やっと来たってばよー!」  一楽の暖簾が見える所まで来ると、そんな声が聞こえてきた。  金髪の少年が、こちらを指差している。  ナルトだ。  その隣には愛しのイルカもいる。 「…何でナルトがいんの?」  不満タラタラの声で、カカシはナルトに訊ねる。 「俺はただラーメン食いに来たの! そしたらイルカ先生がいるから一緒に食べようと思ったのに、 イルカ先生ってばカカシ先生と待ち合わせしてるから先に食えないって言って一緒に待つ事にしたんだってばよ!」 「イルカ先生…待ちました?」  怒ってるかな…と、カカシはちらりと愛しい者の顔を覗き見る。  だが、イルカは相変わらずいつもと同じ、穏やかな顔をしている。 「いえ、まだ約束の時間より5分早いですから」 「ええー!! カカシ先生が遅刻しないなんて珍しいってばよ!」  イルカの言葉に、ナルトは驚いた声を上げる。 「カカシさんってそんなに遅刻ばっかしてくるのか? ナルト…」  ナルトのその驚きぶりに、イルカは驚いている。  自分と待ち合わせしている時は、一度も遅れて来た事が無いからだ。 「そうなんだってばよ! 三時間は余裕で遅れて来る癖に悪びれもせず……むぐっ」  ナルトは、今までどれだけカカシに待たされたかイルカに説明しようとした、その時だった。  不意にカカシに両手で口を塞がれた。 「ナルトー、ラーメン食うんだろ」 「おう! そうだった!」  カカシの言葉に、ナルトは暖簾をくぐって「アヤメさーん、味噌チャーシュー大盛り!」と叫んだ。 「じゃあ、一緒に食べましょうか」 「ええ」  イルカはにっこりとした笑顔をカカシに向ける。  そんな笑顔に見惚れながらも、カカシはイルカと一緒に暖簾を潜った。  もう、店内ではナルトが味噌ラーメンを啜っていた。  醤油ラーメンを啜り、餃子を食べながらカカシはこれってデートか? という疑問を脱ぐいされないでいた。  確かに、ナルトも一緒だと親子に見えるかも知れない。  だが、それでもカカシはイルカと二人きりになりたかった。  これを食べ終わったらどうやってナルトを一人で帰らせてイルカをお持ち帰りしようかと本気で考えていた。  ナルトを特に可愛がってるイルカの事だ。  きっと、食べ終わったらナルトを家まで送るだろう。  そうすれば、イルカと二人きりになれない。  どうすればいい…と、本気で悩んでいると、新たな客が暖簾をくぐって入って来た。  それは、ゲンマとハヤテだった。 「お。親子でラーメンですか」 「栄養バランスも考えた方がいいですよ、奥さん」  二人は入って来るなり、イルカとカカシとナルトの三人組を見て、そんな事を言った。  特にハヤテは、「奥さん」の部分でイルカの肩をポンと叩いた。 「…ん? “奥さん”……?」  餃子を口に運ぼうとしていたイルカは、ハヤテの言葉に首を傾げる。 「俺は塩ラーメン。メンマたっぷりで」 「私も同じのをお願いします。コーンたっぷりで」 「「あと、餃子一つ」」  最後に声を揃えて注文する。  注文をした後、二人はごく自然に隣同士で座る。  そして、先に出てきた餃子を、これ見よがしに互いで食べさせ合う。 「ハイ、どうぞ」 「あ〜ん」  ゲンマの口の中に、出来立ての餃子を一つ、一口サイズにしたものをそっと入れる。 「熱いので気を付けて下さいね」 「ん…美味い。じゃあ、次はハヤテ。ほら、あ〜ん」  そして、今度はゲンマがハヤテに餃子を食べさせる。 「ねえ、いつもこんな感じなの、この二人って」  カカシは思わず、テウチとアヤメにそう訊ねた。 「そうだねぇ。いっつもこんな感じだね」 「お二人がお見えになるのは一週間に一度ぐらいですけど、 いっつもこんな感じにラブラブイチャイチャとストロベリってますよ」 「…そうなんだ……」  ふうん、と溜め息混じりにカカシは再び、ちらりとストロベリってるゲンマとハヤテを見た。 「カカシィ。あんまじろじろ見んなよ。ハヤテが怯えるだろ」  ゲンマが、カカシの視線に気付いて慌てたように、ハヤテの前を手で遮る。 「…人前でストロベリやがって……」 「羨ましいだろ〜」 「ああ羨ましいね」 「じゃあイルカとすればいいだろ」 「それが出来れば苦労しないんだよ!」  思わずカカシは声を荒げた。  だが、慌てて口を噤む。  隣のイルカをチラリと見てみたが、イルカはナルトを心配そうにじっと見ていた。 「ナルト、あんまこぼすなよ」 「こぼしてないってばよー!」 「ほら、これは何だ?」 「………う…っ」 「イルカくんとナルトくんだけ見ていれば、本当に親子みたいですよね」  食べ終わったハヤテが、その二人を見てぽつりと呟いた。 「やっぱり〜?」  かなり嬉しそうに鼻の下を伸ばしながら、カカシはだらしない笑顔を作る。 「いえ、カカシさんはどちらかと言うと…近くにいる、親戚のオジさんという感じでしょうか」 「親戚の……オジさん……」  容赦無いハヤテの一言が、カカシの心にグサリと刺さった。 「…あ。お兄さん、の方が良かったですか。カカシさん、 まだ26ですしね。…あ、今日、27になるんでしたっけ」  くすりと微笑みながらハヤテはそう言う。  今日、カカシの誕生日だという事をさり気無くイルカに知らせているのだ。 「御馳走様でした」  両手の掌をポンと合わせながら、イルカはぺこりと頭を下げる。 「ごっそーさん」  イルカと同じように両手の掌を合わせ、ナルトも頭を下げた。 「あー、美味かった! …ん? カカシ先生、何持ってんの?」  立ち上がったナルトは、カカシの脇にある二つの袋に気付いた。  さっき、誕生日プレゼントとしてゲンマとハヤテから受け取った甘栗だ。   「ああ、さっきゲンマとハヤテから貰ったんだよ」 「しかも甘栗甘の甘栗じゃん! あそこの甘栗、甘くてすっごく美味いんだってばよ!」 「そうなんだ…」  甘いものが苦手なカカシは、あまり甘味処には行かない。  ナルトの説明に、カカシはふうん…と、その甘栗の袋をちらりと見た。 「……食べたいの?」  甘栗の袋をじ〜っと見ているナルトの視線に気付くと、カカシは一袋をそっと差し出す。 「いいの?」 「別に俺は……じゃあ、一緒に食うか」 「おう! イルカ先生も一緒に食おう!」  よっしゃ!  ナルト、よくやった!  自分がイルカに言おうかどうしようか迷っている事を、先にナルトが言ってくれた。  思わず、カカシは内心でガッツポーズをとりながら、ナルトを褒めまくっていた。 「悪いが、ナルト。もう暗くなるから帰りなさい」 「えー」 「甘栗なら、明日俺が買ってやるから」 「ホント!?」 「ああ。俺が一度でも嘘をついたこと、あるか?」 「無い、無い! じゃあ、約束だかんな!」 「ああ。気を付けて帰れよ」 「おう! イルカ先生、カカシ先生、ハヤテさん、ゲンマさん、またな〜!」  手をブンブンと振りながら、ナルトは一楽から走って出て行った。 「……いいんですか」  ナルトの姿が見えなくなると、カカシはイルカに訊ねる。 「何が、ですか?」  カカシの問いに、イルカはきょとんと首を傾げた。 「ナルトを帰してしまって…」 「ええ」 「……そう、です、か……」 「今日は、あなたの誕生日でしょう」 「………えっ」 「今、ハヤテが言ってたじゃないですか」 「あ、ああ……」 「今から俺ん家来て下さいよ。ささやかながら何か祝いますんで」 「え……っ、い、いいんですか!?」 「ええ、勿論」  やったー!  ありがとう、神よ!!  イルカの言葉に、カカシは天にも昇るような気持ちになっていた。 「ケーキでも買って帰りましょうか」 「いえ、もう…そのお気持ちだけで充分です」 「そうですね。もうお腹一杯ですし」  そう言って、二人は立ち上がった。 「あ、今日は俺が奢りますよ」 「え、そんな…」 「今日はカカシさんの誕生日じゃないですか。これぐらい奢りますから」 「…それじゃあ、お言葉に甘えて」  支払いを済ませ、二人は一楽から出た。  すると。 「それじゃー、お二人さん、お幸せに」 「お幸せに」  暖簾を捲って、顔だけを覗かせたゲンマとハヤテが、カカシとイルカにそう言った。 「お前等もなー!」  幸せ一杯のカカシは、そう答えてイルカとともに繁華街に消えていった。 〜終〜