+++ 少しは私に愛を下さい +++ 「今、帰った」  そう言って、バキは部屋の扉を開けた。  すると。 「お帰りなさい」  と、明るく可愛らしい声が出迎えてくれた。  いつもは、そんな出迎えの声すらかけてくれない人物が。  いつもなら、舌打ちしながら冷たい目で 「帰って来なくても良かったのに……」とか「任務の最中に死んでくれれば良かったのに……」などと 平然と言うような人物が。  だが、それでもちゃんと食卓には食事が用意されている。  どんな冷たい目を向けられようが、どんな冷たい言葉をかけられようが、バキはそれだけで良かった。  実際、今日も又冷たくあしらわれるだろうと予想していたが、そんな予想と反していつもとは違う対応。    今度は何を強請られるんだ……給料日前なのに……  そんな事を考え、ふと声がした方を向くと、ハヤテはソファに上に腰掛けていた。  そして、そんなハヤテの膝の上には我愛羅がいる。  しかも、二人は向き合っている形で。  時々、ハヤテは我愛羅の頭を撫でてやる。 「我愛羅くんは、本当に可愛いですね」  などと、我愛羅に向かって言いながら。  ハヤテの膝の上の我愛羅は、満更でも無さそうな顔をしている。  相変わらずの無表情ではあるが。  バキが帰って来た事に気付くと、不意に我愛羅は倒れ込むようにハヤテの胸に抱き付いた。  その上、頬擦りまでしている。  するとハヤテは、嬉しそうにそんな我愛羅を抱き寄せる。 「……可愛い〜」  そう呟くハヤテに抱き寄せられ、頭を撫でられながら我愛羅はバキの方を向いた。  そして。  一瞬だけ、ニヤリと笑った。  それは、どう見て勝ち誇ったような顔だった。    こ、このガキ…………ッッ  思わず、バキは拳を握り締めた。 「あ、ちょっと……」  我愛羅の背中をギロリと睨んでいると、そんなハヤテの声で我に返った。  何と、我愛羅はハヤテの着ている浴衣の襟元の中に、手を入れている。    こ、このガキ……ッ!!    俺だってまだしてないのに…………ッッ!!!  再び、バキは拳を握り締める。  一瞬とは言え、バキの中に18歳年下の部下に対して、初めて殺意を抱いた。 「我愛羅くんは、悪い子ですね」  だが、それでもハヤテは微笑んだまま我愛羅の頭を撫でてやる。  以前、バキに対しての対応とはまるで違う。  以前、バキが今我愛羅がしている事と同じような事をしようとしただけで、ハヤテに思い切り殴られたのだ。  いや、殴られただけではない。  蹴られ、その上罵倒され続けた。  本気で、殺されるとさえ思った。  白い肩が見えた。  ハヤテの、肩だった。  我愛羅が、ハヤテの着ている浴衣の左側の襟元を、肩からそっと外したのだ。  すると。  左肩から、胸部や腹部に掛けて大きな傷跡があるのが目立った。  もう、かさぶたになってはいるが、かなり大きな傷だ。  一部始終を見ていたテマリやカンクロウさえも、驚くぐらいの。    あれは……あの時の…………  バキがそう思っていると、不意にハヤテは俯いた。  膝に、我愛羅を乗せたまま。  悲しげな表情をして、俯いたのだ。 「…………ハヤテ」  そんなハヤテの表情が一番良く見える場所にいる我愛羅も、少し悲しげな表情をし、ハヤテの名を呼んだ。 「……この傷が、ハヤテを悲しませるのか? この傷を付けた奴が、ハヤテを悲しませているのか?  誰が、付けた? 俺が殺してきてやる」  我愛羅は、ハヤテに向かってはっきりと確かにそう言った。  テマリとカンクロウも、無言で頷いている。  すると、ハヤテは俯いたままスッと片手を上げた。  そして、その手でバキを指差した。 「あの人です」  俯いたままハヤテは小さな声で、ポツリと呟く。 「あいつか……」  後ろを振り返り、バキを睨みながら我愛羅はハヤテの膝の上から降りた。  テマリとカンクロウも、バキから少し離れる。  テマリは、背中の巨大扇子を広げた。  カンクロウは、カラスに巻かれている包帯を解いた。 「ちょ、ちょっと待て……!!」  砂の三兄弟の本気の殺気に、バキは慌てた。 「「「問答無用!!」」」 「待って下さい」  三人が攻撃を仕掛けようとした、まさにその時。  ハヤテが、声を出した。  我愛羅の手を優しく掴みながら。  そして、我愛羅を抱き上げ、再び向かい合う形で自分の膝の上に乗せた。 「私なら、大丈夫ですから」  にっこりと微笑みながら、我愛羅を抱き寄せた。 「……本当か?」  首を傾げ、ハヤテの顔を覗き込むように我愛羅は訊ねる。 「ハイ」  尚もハヤテは笑顔のまま、答える。 「我愛羅くんは、優しい子ですね」  と、再び我愛羅の頭を撫でてやる。  我愛羅はハヤテの漆黒の瞳をじっと見詰めたまま、やはり満更でも無さそうな顔をしている。  相変わらずの無表情だが。  不意に、ハヤテは我愛羅の額にそっと口をつけた。 「……我愛羅くんは優しいから、ご褒美です」  にっこりと微笑んだままハヤテは我愛羅にそう言う。  すると我愛羅は、少しだけ顔を赤くする。  照れているようだ。 「う……、か、可愛い〜っっ」  そんな我愛羅を見て、ハヤテも嬉しそうに再び抱き寄せる。  今度は強く。 「ハイハイ、我愛羅ー、其処までだよー」  不意にテマリがそう言いながら、我愛羅をハヤテの膝の上から降ろした。 「次は私ー!」  嬉しそうにテマリがハヤテに抱き付く。 「はい、テマリさんも」  そう答え、ハヤテは今度はテマリを優しく抱き寄せる。 「……ハヤテさんって……母様みたい……」  ハヤテに抱きつきながら、しみじみとテマリは呟いた。 「そうですか?」 「うん。優しくて、あったかくて……強くて!」 「…………」  テマリの言葉に、ハヤテは微笑んでそっとテマリの頭も撫でてやる。 「……そういえば私、誰かに頭撫でられたのって、はじめてかも……。いつもお姉ちゃんお姉ちゃんって…………」  すると、不意にハヤテはテマリを少し強く抱き締めた。 「では……これは、今まで頑張ってきたご褒美です」 「我愛羅みたいに、キスしてくれないの?」 「え……っ」  テマリの発言に、ハヤテは驚いたような声を上げる。 「私も、おでこにしてよ」  と、テマリは自分の前髪をかき上げた。 「…………ハイ」  テマリのおねだりに、ハヤテは微笑みながら答える。  そっと、テマリの額にも口をつけた。 「えへへー」  するとテマリは、嬉しそうに笑った。 「カンクロウは?」  テマリはハヤテの腕の中で、自分と一つ違いの弟に声を掛ける。 「お、俺は別にいいじゃん……」  慌てて、カンクロウはテマリから目を逸らす。 「ハヤテさん、カンクロウにも……」  そんなカンクロウの様子に、テマリは笑いながらハヤテに訊ねる。 「ええ、構いませんよ?」  にっこりとした笑顔で、ハヤテはそう答える。 「ほら、カンクロウ」  ハヤテの膝の上から降りて、テマリはカンクロウの腕を引っ張る。  そして、背中を押してハヤテに抱き付かせた。 「カンクロウくんも」  そう呟くように言いながら、ハヤテはカンクロウも抱き寄せる。  ハヤテの胸の中で、カンクロウは我愛羅とは比べ物にならないぐらい真っ赤になった。 「カンクロウくんにもご褒美をあげないといけないんでしょうか?」  カンクロウの頭を撫でてやりながら、ハヤテは首を傾げた。 「俺は……」 「ん?」 「……あんな姉と弟に挟まれて、すっげぇ大変じゃん……昔っから……」 「そうなんですか」 「…………」  こくん、とカンクロウは一度だけ頷いた。  すると。  ハヤテは、カンクロウの額に口をつけ、そして抱き寄せた。 「では……これは今まで頑張ってきたご褒美です」 「…………ね、ハヤテさん」  まだカンクロウを抱き寄せているハヤテに、テマリは小声で囁いた。 「先生も、物欲しそうな顔してるよ?」  テマリのその言葉に、ハヤテはやれやれ、と言わんばかりにバキの方を向いた。  じっと、此方を見ている。 「何か、あげたら?」  テマリは、尚も小声で囁く。 「テマリさんは、優しいですね」 「え?」 「あの人は、無視しましょう」 「……ひでぇ」  気が付くと、ハヤテの膝の上にいるのはカンクロウではなく、我愛羅になっていた。  ハヤテが我愛羅の頭を撫でていると、不意にバキが近付いてきた。 「…………何か用ですか」  まるで我愛羅を守るように抱き寄せながら、ハヤテは不機嫌極まりない顔でバキを睨む。  すると、バキは我愛羅を抱き上げ、ハヤテの膝の上から降ろした。  我愛羅の痛い視線を背中に受けながら、バキはじっとハヤテを見ている。 「俺は、この三兄弟の世話を5年以上している」  そして、突然口を開き、そんな事を言い出した。 「……そうですか」 「…………大変だったんだぞ」 「ふうん。素直で可愛い子達じゃないですか」 「それはお前に対してだけだ!」 「それはあなたに人望が無いからでしょう」  ハヤテのその言葉に、テマリと我愛羅とカンクロウは同意するように頷いた。 「…………俺は、最近Sランク任務ばかりしている」 「そりゃ里がこんな状況ですからね。当たり前でしょう」 「…………」 「何が言いたいんですか」 「……何故、俺にはくれない?」 「はぁ?」 「俺だってなぁ、頑張ってるんだぞ! お前にはそう見えないのか!?」 「ええ、見えません」 「…………」  ハヤテの素っ気無い返事に、バキは深々と溜め息をついた。  そして、あからさまに肩を落とす。  だが、何か思い付いたように顔を上げると、ソファに座っているハヤテの足を跨ぐように乗ってきた。 「貰えないのなら、奪うまでだ」  そう呟くように言うと、ハヤテの顎を掴み、少しだけ上に向けた。  そして、顔を近付けて来る。  段々とバキの顔はハヤテの顔に近付いて行く。 「ちょ……っ、離れろ、この変態」 「どうせ俺は変態だ。だが、力では俺の方が上だ」 「……ぐ………っ」  バキの言葉に、ハヤテは悔しそうに唇を噛み締める。  もう少しで二人の唇が重なりそうになった、その時だった。 「………う…………っ、えぐ…………っ」  ハヤテが、突然泣き出した。  大粒の涙をぽろぽろと流している。    な、泣く程……嫌なのか……  その事に気付くと、バキはかなり戸惑った。 「……このオジさん、恐いよぅ…………」 「お、オジ……!?」 「……木の葉に帰りたいよぅ……父上……母上……ゲンマさん………」 「な、泣くな……」  突然泣き出されて、困り果てたバキは思わずハヤテから少し離れた。  すると、ハヤテは両手で顔を覆いながら俯き、小さいながらも声を上げてえぐえぐと泣いた。 「泣かなくても……」  必死になって慰めようとした、その時だった。  突然、バキの後頭部に痛みが走った。  バコン、という音ともに。  後頭部を押さえながら振り返ると、其処には巨大扇子を手にしたテマリがいた。  どうやら、その巨大扇子をまるでハリセンのように使ってバキの頭を殴ったらしい。 「母様を泣かすなーッッ!!」  そして、テマリはバキに向かってそう叫んだ。 「か、母様……?」 「ハヤテさんは私達の母様代わりだ!!」 「……だからって……」  まだ、バキの後頭部にはかなりの痛みが走っている。 「その巨大扇子は……ハリセンじゃないだろ………」 「ハヤテさん、泣かないでー。ホラ、あの変態なら私が殺しておいてあげるから」  テマリはそう言いながら、両手で顔を覆っているハヤテにそう言う。 「…………あの男を殺すのは、私です」  だが、ハヤテは涙声でテマリの言葉にそう返す。    俺は、虐げられてないか……?  まだ頭を押さえながら、バキは俯き悩む。  すると突然、何やら印を組み始めた。 「あ、あれは……?」  テマリは、ちらりとハヤテの方に目を向けながら訊ねた。 「ただの変化の術のようですね」  あまり興味無さそうに、もう泣き止んだハヤテは再び我愛羅の頭を撫でている。  どろん。  そんな音とともに、バキは煙に包まれた。  その煙が晴れると、其処には見知らぬ幼い少年がいた。  我愛羅より年下で小柄な少年だ。  だが、よく見てみれば(よく見てみなくても)その少年は、バキの面影がある。  実際、顔の左側を布で隠している。  身に付けているものは、全く同じだ。  つまりは、ぶかぶかの砂隠れの里の忍装束を着ている。 「ハヤテー、俺も、俺も」  その少年……いや、変化の術で幼くなったバキは、指先さえも見えない程大きな両の袖口を、ハヤテに向ける。  (((……こ、この上忍…………プライドはねぇのか…………!?)))  三兄弟は、その姿を見て呆気にとられている。  ハヤテはその少年を見て、ぷるぷると震えた。 (ホラ、ハヤテさん…………情けなくって、怒ってる…………どうなるかな、先生)  ハヤテの様子を覗き見たテマリは、少しくすりと笑いながら幼く変化した自分の上司を見る。 「か、可愛い!!」  突然、ハヤテはそう叫びながらその少年を抱き締めた。 (((…………えええええッッ!?))) 「可愛い〜」  抱き締めながら、その少年に頬擦りまでしている。 「……な、なあ……あれ……今、ハヤテさんが抱き締めてるガキ…………先生、だよな…………?」  テマリは不安そうに、カンクロウにそう訊ねる。 「今、俺達の目の前で変化してたじゃん」 「…………可愛い、か…………?」 「…………さあ…………」  テマリとカンクロウは、首を傾げる。  我愛羅は、不満そうにハヤテとバキの二人を見ているだけ。 「俺は、最近Sランク任務ばかりしている」  ハヤテの膝の上で、ハヤテを見上げながらバキはそう言う。 「頑張ってるんですね」 「…………くれないのか?」  ハヤテを見上げながら、バキは強請るように言う。 「ご褒美ですね」  ハヤテの言葉に、バキはこくんと頷く。  すると、ハヤテはバキの右側の頬にそっと口をつけた。  唇を離してバキの顔を見ると、じっとハヤテの顔を見ていた。 「可愛いですね」  にっこりと笑いながら、ハヤテはそんなバキの頭を撫でる。  すると、バキも又、我愛羅のように無表情ながらも満更でなさそうな顔をした。  そして、何かに気付いたように振り返った。  我愛羅と目が合うと、ニヤリと笑った。  勝ち誇ったような顔で。  すると、やはり我愛羅はムッとした顔をした。  すっと、ハヤテに近付いてくる。 「ハヤテー……」  まるで甘えるように、我愛羅はハヤテを見上げながら、ハヤテの着ている浴衣の裾を引っ張る。 「順番です」  そんな我愛羅の頭をそっと撫でてやりながら、ハヤテは笑顔でそう答えた。 「…………」  ギロリ。  我愛羅は、ハヤテの膝の上にいる、変化の術で幼くなったバキを殺意をこめて睨んだ。  だが、そんな視線には気付かないフリをして、バキは幼い子供を演じている。 「ハヤテ……もうそろそろ寝る時間だ」 「もうそんな時間ですか」  壁に掛けられた時計を見上げながら、ハヤテは呟いた。 「では、もう寝ましょうか」 「寝るー!」  ハヤテの膝の上で、足をばたばたと動かしながら指先さえも見えない袖をぱたぱたと動かすバキ。 「あー、もう……可愛い」  そんなバキを抱き寄せ、頬擦りまでしながら、ハヤテは心底幸せそうに呟く。 「じゃあ、寝ましょう。我愛羅くんもテマリさんもカンクロウくんも、おやすみなさい」  それだけ言って、ハヤテはバキを抱き上げたまま自分に与えられた部屋へと入って行った。 「…………なぁ……あれ、本当に…………可愛いか…………?」  ハヤテの姿が見えなくなると、テマリは不安そうにカンクロウと我愛羅に向かって訪ねる。 「……さあ……」 「可愛くない」  首を傾げながら答えるカンクロウに対し、我愛羅はハッキリとそう答えた。 「……俺の方が可愛い」  腕を組み、我愛羅は見えなくなったバキを睨んでいる。 「「…………」」  翌朝。  一睡もしなかった我愛羅が、ハヤテの部屋に入って行った。  すると。  ベッドの中で、ハヤテがすやすやと静かな寝息をたてて眠っている。  そして。  眠っているハヤテは、バキを抱き寄せている。  まるで抱き枕のように。  だが、それは変化の術で幼くなったバキではなくなっていた。  いつもの、三十路男に戻っている。  それを発見した我愛羅は、ニヤリと笑った。  これからのこの男の運命に気付いているのだ。 「むにゃ…………」  するとその時、ハヤテが目を覚ました。 「…………ん?」 「…………」    じーっと、無言で我愛羅はハヤテを見ている。 「あ、ああ……我愛羅くんですか……おはようございま…………ん?」  その時、ハヤテは自分のすぐ隣にいる、三十路男に気が付いた。 「ギャアアアア!!!!」 「……なっ、何だ!?」  突然耳元で大声を叫ばれ、慌てたようにバキは起き上がった。 「この変態がァァ!!!!」  寝起きのバキを、ハヤテは思い切り蹴飛ばした。 「ぐあ……っ」  突然の蹴りに避け切れる筈も無く、バキはそのまま蹴り飛ばされた。  後頭部が、壁に当たる。 「突然、何を…………」  床に叩き付けられたバキは、痛そうに後頭部を押さえながら立ち上がる。  くらくらしている。 「それはこっちの台詞だァァ!! この変態!! 首を出せ!! 斬り落としてやる!!!!」  刀を、鞘から取り出しながらハヤテの眼は、すっかり殺気だっている。 「ちょ、ちょ……っ、ま、待て…………!!」 「問答無用……!! 死ねェェェ!!!」  ハヤテは躊躇せずに刀を、バキに向かって振り下ろす。  寸での所で、バキはその刀を真剣白刃取りした。  ハヤテと我愛羅の舌打ちが聞こえて来た。  ふう……、という溜め息を漏らした。  だが、安堵の溜め息はまだ早い。  今度はハヤテは刀を放り出し、再び蹴ってきた。  再び、壁に叩き付けられる。 「いっぺん死ね、この変態!!」  床に倒れたバキの上に馬乗りになり、ハヤテは殴りかかってきた。  何発も、殴られる。 「……ご……、誤解………だ……………」 「死ね!」 「…………っ」   このまま、俺は死ぬのか………  本気で、バキは死を覚悟した。  すると。  不意に、今までのハヤテによる拳の嵐が収まった。 「ああ、我愛羅くん。おはようございます」  バキから離れ、我愛羅の頭を撫でてやりながら、ハヤテはにっこりとした笑顔で言う。  我愛羅は無言で頷いている。  満更でも無さそうな顔で。 「さあ、朝食にしましょう」  そう言って、ハヤテは我愛羅と一緒に部屋を出た。  その時、我愛羅は一度バキの方を振り返ってきた。  そして、一度だけ、ニヤリと笑った。  どう見ても、勝ち誇ったような笑顔だった。 「…………」  バタン、と閉められた扉を見詰めながら、バキはしみじみ思った。   やはり……俺は、虐げられている…………   少しは、俺にも愛をくれ…………  と。 〜終〜