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 木の葉隠れの里の甘味通り。
 其処には、数多くの甘味処が並んでいる。
 その中でも一位二位を争う程の人気店は、甘栗甘である。

 この甘味通りは、木の葉内では数少ないデートスポットである。
 今日も又、仲良さそうに腕を組んで歩く恋人同士で溢れている。

 その中に、彼等はいた。

 緑のスーツにオカッパ頭という超個性的な姿。
 木の葉一熱い男と言われている、木の葉の上忍。
 体術のスペシャリスト、マイト・ガイ。
 いつもの、忍装束である。

 そんな彼の隣にいるのは、お団子頭にチャイナ服。
 やはりいつもと変わらない姿の、ガイの部下であるテンテン。

 彼等は、仲良く肩を並べて甘栗甘へと向かっていた。

 二人は、つい先程まで演習場で修行をしていたのだ。
 いつもはリーにばかり構っているガイが、今日は珍しくテンテンと修行をしていたのだ。

 修行お疲れ様、というワケでテンテンはガイを半ば無理矢理甘味処へと連れて来たのだ。


 その途中の道のりで、彼等はこれまた珍しいカップルに逢った。


 砂の額当てを首に巻き、髪を後頭部で四つに結わいている強気な目をしている少女、テマリ。
 そんな彼女の隣には、同じく砂の額当てを額に巻き、顔の左側を布で覆っている男。
 テマリ達砂の三兄弟を率いている砂の上忍、バキ。

 甘栗が好きなテマリが、木の葉の甘栗甘の甘栗が美味しいと聞き、やって来たのだ。
 保護者として、バキを連れて。


「「あ」」


 中忍選抜試験、第三の試験予選にて戦い合った二人の少女は、甘栗甘の前で再び巡り会った。

((…………この女……………))

 テンテンとテマリは声をかけ合う事も無く、それぞれ相手の隣にいる上忍をチラリ見て、同じ事を思った。

((…………男の趣味、超絶悪…………ッッ!!!!))

 勿論、声には出さない。


「ガイ先生、入ろっ」

 テマリからぷいっとそっぽを向き、ガイの腕を引いて、テンテンは甘栗甘の中へと入っていった。

「先生、行くよ」

 と、テマリも半ば無理矢理バキの腕を引っ張って甘栗甘の中へと入っていく。


「申し訳ありません……満席でして……相席ですが、よろしいでしょうか?」

 テンテンとガイは、店員にそう言われている。

「はい。私は構いませんけど……先生、いい?」
「俺も構わんぞー!」

 テンテンはガイを上目遣いに見上げて訊ねる。
 ガイは、テンテンの問いに即答する。

「それでは、どうぞ」

 すると、店員も微笑んで二人を窓際の席へと案内した。


(…………まさか…………)

 テマリは、嫌な予感がした。

「相席ですが、よろしいですか?」

 店員がそう訊ねてきた瞬間、(テマリはやっぱり……!)と思った。


「テマリ。構わんだろう」
「えっ、あ……うん」

 バキに声をかけられ、テマリはハッと我に返った。

 そして二人が案内された席は、テマリが思った通り、テンテンとガイ二人との相席だった。


((何でこんな女と…………!))


 店員に出されたお茶を飲みながら、テンテンとテマリの間には目には見えない火花が散っていた。


「テンテン。胡麻団子にするのか? それとも、中華まんか?」

 テマリから目を逸らしながらメニューを見ているテンテンに、ガイは声をかける。

「あー、先生。私の好きなモノ覚えててくれたんだー」

 すると、ガイの言葉に嬉しそうにテンテンは顔を上げる。

「当たり前だろうー! テンテンも俺の愛すべき大切な部下だ!」
「嬉しい! じゃあ…………胡麻団子にしよっかな」
「よし。決まりだな!」

 そして、ガイとテンテンは店員を呼んで注文した。


「甘栗でいいんだろう」

 メニューを見ているテマリに、冷たくバキはそう言う。

「えー。それだけぇ!?」

 上司の言葉に、不満そうにテマリは顔を上げた。

「……何が不満なんだ」
「だって、甘栗だけじゃ足りないじゃん」
「食いすぎると太るぞ」
「五月蝿いなー。だから彼女できないんだよ」
「……それとこれとは関係無いだろ………」
「あ。ハヤテさんだ」

 テマリの一言に、慌てたようにバキは顔を上げ、窓の外を見た。
 だが、其処にテマリが言っていた人物の姿は、何処にも無い。
 その事に気付き、バキがテマリを見ると、彼女は可笑しそうにくすくすと笑っていた。

「…………騙したな」

 震える声で、テマリにそう言う。

「騙される方が悪いんだよ」

 小馬鹿にした言い方で平然と答えるテマリ。

「…………嫌な奴だな。そういう腹黒いところは夜叉丸そっくりだ」
「あ、わかった。そうやって昔の女の事をいつまでも引き摺ってるから彼女できないんだー」
「夜叉丸は男だろうが!」
「先生にとっては女だったんでしょ。夜は夜叉丸が女役でさ。下で……」
「……この腐女子が」
「でもさぁ、腹黒さから言ったら夜叉丸よりハヤテさんの方が上じゃないの? 先生の食事に平気で毒入れてたもんね」
「…………」
「それでも全てを受け入れてた先生は大人って言うかー。ま、それでもハヤテさんは先生から去って行ったんだよね」
「……注文、しないのか」

 そのテーブルに、店員が注文を取りに来ていた。

「あ。私、甘栗一袋」

(やはり甘栗にするんじゃないか……)

 店員に注文しているテマリの言葉に、バキは心の中でツッコミを入れる。
 勿論、口には出さない。

「それと、金魚鉢パフェ一つ」

(……何!?)

「先生は何もいらないんだよね?」
「……あ、ああ………」
「じゃ、以上で」

 テマリの一言で、店員が去って行った。

「お前……金魚鉢パフェなんか食うのか……?」
「うん。一度食べてみたかったんだ」
「……食いきれるのか?」
「残りは先生にあげる」
「いらん」

 テマリの言葉に、バキは即答した。

「……即答しなくたっていいじゃん。…………あ。ハヤテさんだ」

 再び、テマリはそんな事を言う。
 今度は、窓の外を指差して。

「今度は騙されんぞ」
「本当だって」
「騙されんぞ」
「…………あ。彼氏と一緒だ。あの本選の審判と一緒。へぇ……審判同士のカップリングかぁ……いいなぁ……。やっぱ木の葉はいい男が沢山いるな……いいなぁ。砂抜けようかな」
「男の為に抜けるのか。流石は砂が誇る腐女子だ」
「フジョシ、フジョシって五月蝿いよ! 腐女子で何がいけないんだよ!」
「砂の恥だ」
「……さっき、砂が誇るって言った……」
「ん? ああ、それは言葉の綾だ」
「…………。ハヤテさん、彼氏と甘栗買ってる」

 ぽつりと、テマリは呟いた。
 ふと、バキが店内のレジの方を向くと、其処には先程テマリが言っていた通り、ハヤテがいた。

 本物だ。

 しかも忍装束ではなく、紫のタートルネックセーターにジーンズ姿という、私服を着ている。
 その隣には黒いセーターにジーンズを着たゲンマがいた。
 二人は仲良く、「甘栗甘」の甘栗を買っている。
 じーっと、バキとテマリが見ているからだろうか。
 視線を感じたのか、ふとゲンマは此方を向いてきた。
 そして、ゲンマとバキは目が合う。


 あ……。


 ゲンマの口が、開く。
 まるで呆気に取られたかのように。
 目も見開いている。


 そんなゲンマに気付いたのか、ハヤテは顔を上げた。

「ゲンマさん……どうかしたんですか? …………ん?」

 ゲンマの視線を追って、ハヤテもこちらを振り向こうとした。
 だが、その途端。
 振り向かせまいと、ゲンマはハヤテの頬を両手で挟み、自分の方を向かせた。

「お前は、何も誰も見なくていい。俺だけを見ていればいいんだ」
「…………はい」

 ゲンマの言葉に、ハヤテは嬉しそうににっこりと微笑んだ。
 そして、二人は店を出て行った。

「あ〜あ。見せ付けられちゃったぁ。アハハ」
「…………クソ…………ッ」
「あ。先生、悔しがってるぅ。無理だって。先生、絶対勝てない。勝率0%〜! ルックスじゃ完璧負けだもん、先生」

(このお団子頭の女と一緒にいる激眉でオカッパ男と比べたら……まだ、マシな方だけどな……)

 そんな事を思いながら、テマリはテンテンの方をちらりと見た。
 彼女は、もう胡麻団子を食べ終わっている。
 何見てんのよ、という顔で彼女はテマリを睨んでいる。
 そっちこそ見てんじゃないよ、という顔でテマリはテンテンを睨み返す。
 二人の少女の間には、見えない火花が再びバチバチと音を立てていた。
 殺気が充満しているとも言えるこの嫌な空気を、砂と木の葉の上忍が気付かない筈が無い。
 だが、敢えて何も言わなかった。
 否。
 言えなかった。


「お待たせしました」

 二人が睨み合っている間に、店員が甘栗一袋と金魚鉢パフェを持って来た。
 すると、テマリは黙々とそれを食べ始めた。
 その様子さえ、殺気立っているようだった。

「……て、テマリ……落ち着いて食え。早食いは太るぞ」
「五月蝿い!」

 上司の言葉に、テマリは噛み付く。
 そのあまりもの迫力に、砂の実力者はたじたじとなった。


「……先生、行こっ」

 食べ終わったテンテンが、隣のガイにそう明るく言った。

「また、修行に付き合ってくれる?」
「おう! 構わんぞー!」

 テンテンの問いに、ナイスガイポーズで答えるガイ。
 テンテンはガイのその答えに嬉しそうに微笑み、二人肩を並べて店を出て行った。

(クソ……ッ、どいつもこいつも私の目の前でイチャつきやがって……!)

 デートスポットとなっているこの甘味処。
 見渡す限り、カップルばかりだ。

(私だってなぁ、先生とイチャつきたいんだよーーーッッ!!!)

 金魚鉢パフェを黙々と食べながら、テマリは隣にいる自分の上司をチラリと見た。
 バキは、窓の外をぼんやりと眺めている。
 まるで綺麗な一つの風景を観ているように、テマリは気が付いたらそれに見惚れていた。
 慌てて首を横に振り、自分の前にある食べかけの金魚鉢パフェを、バキの前にドンと置いた。

「……はい」
「食いきれなかったのか……なら最初から普通のパフェにしておけばいいものを」
「文句言うならあげない。私一人で食べる」
「……無理はするな」
「無理なんかしてない」

 テマリは再び金魚鉢パフェを自分の前に移し直すと、食べ始めた。

「…………何を怒っている?」
「別に怒ってなんかいない」
「……充分、怒ってると思うがな……」
「五月蝿いな……」
「そう怒ってばかりいると、早夜譲りの美貌が台無しだぞ」
「うるさ………、って……ええ?」

 今のバキの台詞に、思わず反射的に噛み付きそうになったが、思い返してみて、首を傾げた。

「…………今のこっ恥かしい台詞を、俺に二度も言わせる気か?」

 テマリの隣のバキは、無表情だ。

「……うん、言って」
「もう、二度と言わんぞ」
「うん」
「…………」
「早くぅ」
「やめだ。今のも言葉の綾だ」
「うわっ、何それ! ひどっ! 私本気で期待してたのに……っ! 見損なったよ!」
「…………」

 テマリの言葉に、バキは深々と溜め息をついた。

「何、その溜め息」

 ギロリと、テマリは隣にいる上司を睨む。

「別に深い意味はない。早くしないとパフェのアイス、溶けるぞ」
「…………」

 バキの言葉に、テマリは再びパフェに取り掛かった。


「…………先生、食べる?」

 突然、テマリは何か思い付いたようにバキにそう訊ねた。

「甘いものは好かん」
「いいから食べなよ〜」

 と、テマリはスプーンにその金魚鉢パフェのアイスと生クリームをたっぷりと乗せると、それをバキの顔に近付ける。

「いらん」
「後悔するよ」
「するか」
「こんなに可愛くて若い女の子にこんな事して貰えないよ、これからは。絶ッ対に」

 テマリは、「絶ッ対」の部分を強調して言う。

「…………お前、酷い事言うな…………夜叉丸そっくりだ」
「そうやって過去の女の事ばっか話題にするから彼女ができねぇんだよ!」

 バキの言葉に、テマリは噛み付く。

「ああそうだ、俺にとって夜叉丸は女だ。女だった。確かに、俺は夜叉丸を抱いた。何度も何度も」

 観念してか、バキはそんな事を語る。

「…………。じゃあ、夜叉丸とハヤテさん。どっちを愛してる?」
「…………アイス、溶けるぞ」

 確かに、バキの目の前に差し出されているスプーンの上のアイスは、溶けかかっていた。

「話逸らすなー。答えろー」
「どちらも愛してる」
「…………ずるいなぁ、その答え」
「どちらかなんて選べるか」
「じゃあ、話変えてあげる。私の事は? 愛してる?」
「…………はぁ?」
「私の事、愛すべき大切な部下だと思ってる?」
「……あの男がそんな事言ってたな……」
「どうなの!?」

 バン、とテーブルを叩きながらテマリは話を続けさせる。

「少なくとも、以前の我愛羅には、到底理解できぬ言葉だ」
「それは先生が私達部下の事を愛すべき大切な部下として接してなかったからだろ!」
「………そうだな。大体、俺は子供は好かん」
「…………じゃあ、先生にとって私は子供?」

 バキの言葉に、テマリは少し寂しそうに訊ねた。

「ああ。充分子供だ」
「じゃあ、私の事、嫌いなのか?」
「……何故そういう発想になる」
「どうなんだよ!」

 再び、テマリはテーブルを叩いた。

「……『愛すべき』かどうかはわからんが、『大切な』部下だとは思っている」

 こうでも言わないと再びテマリの機嫌を損ねるのは目に見えていた。

「…………それは、私が風影の娘だから? それとも……母様の娘だから?」
「両方だ」
「…………」

 バキの答えに、テマリは何か言いたそうに俯いた。

「何か、不満か?」
「……うーうん!」

 顔を上げ、にっこりと笑いながらテマリは答える。



   あと5年、待ってろよ!
   子供とは、絶対に言わせない。
 

 テマリは、そう誓ったのだった。




〜終〜