+++アスハヤ+++ 「最近、ハヤテの奴、可愛くなったと思わねえ?」  上忍待機室『人生色々』で、不意に猿飛アスマはその口から、煙草の白い煙と共に、そんな言葉を発した。  つい先程、ハヤテがゲンマと共にこの部屋を出て行ったばかりだった。  アスマの隣で読書をしていたはたけカカシは、すぐにはその言葉の意味が理解できなかった。  愛読書『イチャイチャパラダイス』から目を離し顔を上げ、隣にいる、  その大柄で髭面な姿から通称『熊』とさえ言われている同僚の顔を見た。  その顔は、ふざけているようには全く見えず、真顔であった。 「……な、何言っちゃってんの、アスマちゃん……」  マスクと額当てから外れ露になっている右目だけぱちぱちと何度も瞬きをしながら、カカシは思わず聞き返した。  すると、アスマは溜め息のように大きな白い煙を吐く。  お前なんかに言わなきゃ良かった……  とさえ感じられる吐き方だった。  そんなアスマに少し腹が立ったが、ムッとしただけでカカシはあえて何も言わなかった。 「お前は、そう思わないのか?」 「思わないね。イルカ先生の方が可愛いし〜」 「…………」  自身の恋人であるうみのイルカの名前を出した途端目を細め幸せそうな妄想に入るカカシ。  再び、アスマは白い煙を吐く。  今度は正真正銘の溜め息のようだ。 「そうか……じゃあ俺がハヤテを食事に誘っても別にお前は文句は言わないんだな」  何かを決意したように、アスマは自分の両膝を叩く。 「文句も何も……ってゆーか、そういうの、ゲンマが許さないと思うけど」 「……何で其処でゲンマの名前が出てくるんだ?」  カカシの言葉に、アスマはきょとんとする。  逆にカカシは、そんなアスマにきょとんとした。 「何でって……あれ? もしかして知らないの? ハヤテとゲンマ、付き合ってるんだよ」 「……な、何――――――!?」  目を見開き、驚きを隠す様子もないアスマ。  呆然と口をパクパクしている。  どうやら、全く知らなかった様子だ。 「じゃあ何でさっき二人で此処を出て行ったと思ってんの?」 「何でって……あいつ等同僚、だろ……?」 「………まあ確かに同僚だけどさ……そんな事言ったら俺達も同僚じゃん」 「あ、そうだな……そうだよな……」  今度はしょぼーんと、その大柄な身体を小さく縮ませる。 「まあでも、ダメモトで食事に誘ってみたら? ゲンマがいない時にでも」  何でフォローしなきゃいけないんだと思いながらも、カカシは何とかそう言ってみた。  すると、俯いていたアスマは顔を上げた。 「……ゲンマがいない時?」 「うん。ゲンマがいたら確実に阻止されるよ」 「まあ、そうだよ、な……」 「奢るって言ったら結構簡単にOK貰えたりしてね?」 「………………ダメモトで誘ってみるか…………」  すっかり短くなった煙草を携帯灰皿の中で押し潰し、アスマは立ち上がった。  数日後。  ゲンマが里外任務で数週間里を離れると聞き、早速アスマはハヤテへ食事の誘いをしようと動き出した。  特別上忍事務室の扉の前でうろうろしていると、不意に扉が開き、中から誰かが現われた。 「……何やってんの、あんた」  呆れたような口調でそう言うのは、みたらしアンコだった。 「あ、いや、別に……」 「誰かに用?」 「あ、いや、その……」 「何よー、ハッキリしないわねー。用が無いなら邪魔よ、あっち行きなさい。しっしっ」  アンコは、まるで汚い蝿を追い払うように手を振り払う。  そんなアンコの仕草に流石のアスマも少しばかりムッとする。 「別にお前に用があるわけじゃねぇよ」 「じゃあ誰に用があんのよ?」 「……は、ハヤテだよ……」 「ハヤテ? ハヤテなら資料室に行ったわよ」 「資料室……」  そう呟くと、アスマは瞬身の術でその場から姿を消した。  資料室の前に来ると、ゆっくりと扉を開けた。  沢山の本が並べられた本棚が沢山並んでいる。  本が日焼けしないように常にカーテンが閉められ、部屋全体が薄暗い。  その上、部屋の中は埃の匂いが漂っていた。  目の前にある本棚と、本の間から向こう側が見える。  其処に、ハヤテがいた。  両手に分厚い本を何冊も持って背表紙の管理番号から順番に本棚の中へ入れている。  決意して来たとは言え、いざ目の前まで来ると、少し戸惑ってしまう。  だが、そんな自分自身を奮い立たせて、一歩足を踏み出した。 「……ハヤテ」  最後の一冊を本棚にしまうのを見計らって、アスマは声をかけた。  トン、という本が本棚の奥に入る音と共に、ハヤテがこちらを振り向いてきた。  そして、目が合った。  大きな漆黒の瞳が、アスマを見詰めている。 「あの、さ……えっと……」 「……何でしょう?」 「今夜……暇、か?」 「……何でですか?」  アスマの言葉に、表情を変えずにハヤテは少し首を傾げる。  それでも、その目はアスマを捉えたまま。  警戒しているようにも見える。 「もし、暇ならさ……良かったら、一緒に飯でも食わないかなと……思ってさ……」 「はあ……」 「あ、嫌なら……無理強いしないけど」 「別に、嫌ではないですけど」  やはりまだ表情は変えない。  格別嬉しそうでも、嫌そうでもない。 「じゃあ、いいのか?」 「……ハイ」  即答ではないが、OKを貰った。  想像以上に嬉しく、アスマは無意識のうちに表情がニヤけてきた。  それを見てハヤテの中の警戒色が濃くなったようにも思えたが、気付かないふりをした。 「そっか! 良かった。じゃあ、六時半に茶店の前で待ち合わせでいいか?」 「はあ……」 「じゃあな」 「ハイ……」  それだけ伝えると、アスマはまるで胸の高鳴りを隠すように資料室を出て行った。  扉を閉めると、扉に背中をくっつけ右の掌で左胸辺りに触れてみた。  やはり、物凄く高鳴っている。 「良かった……」  ぽつりと呟くと、浮かれた足取りで歩き出した。  待ち合わせ時間の、六時半。  普段着の忍服のまま、アスマは待ち合わせ場所に自分が指定した茶店の前にいた。  時計の秒針が時を刻む度に胸の高鳴りが強くなるように感じた。  薄暗くなりつつある空をボーッと眺めていると、視線のほんの端に黒い影が見えた。  視線をその影の方へ移すと、其処にはハヤテが近付いてきていた。  どうやら、忍服から着替えたらしく、私服姿だった。  Vネックの長袖Tシャツにジーンズ姿。  襟元から覗かせている鎖骨の間には、小さなネックレスのトップが光っている。 「あ……」  アスマの姿を見て、ハヤテは少し驚いたようにその大きな目を少し見開いた。 「すみません……私だけ着替えて来ちゃって……」 「いやいや、全然」 「あの……待ちました?」 「いや、丁度今来たトコ」  実は30分以上前から来ていたとは、言えない。 「じゃあ、行くか」 「ハイ」  同意を求めてから、歩き出した。  コンパスの違いから気をつけていつもよりゆっくりめに歩いてみる。  視線の約20センチ下に、ハヤテの黒髪が揺れている。  少しでも手を伸ばせば届く距離。  手を伸ばして、その黒髪に触れたい衝動に駆られた。  本能が理性に勝ってしまった。  気が付いたら、アスマはハヤテの黒髪に触れていた。  驚いたように目を丸くしてハヤテが上目遣いにアスマを見る。  慌てて、アスマは手を離した。 「あ、えっと……埃、ついてたから……」  と、埃を払う真似をする。 「すみません」  真に受けたらしく、ハヤテも埃を払うように自分の髪に触れる。  軽く髪を叩く拍子に、その髪の香りが風に乗ってアスマの鼻腔を擽る。 「此処、ですか?」  暖簾を分けてある店に入ろうとするアスマの背に、ハヤテが問い掛けてきた。 「え? あ、ああ」  其処は、アスマ行き付けの飲み屋だった。  本当はもっと飾り立てた店に連れて行きたかったが、そんな店は知らないし入った事も無い。 「こういう店……嫌いか?」 「いえ、そういう意味では、ないんですけど……少し、驚いただけです」 「此処、安くて美味いからさ……よく来るんだよ」 「はあ……」 「いらっしゃーい」 二人が店内に入ると、厨房から店主の大きな声が聞こえてきた。 その店主が顔を覗かせ、来店したのがアスマだと気付くと気さくに声をかけてきた。 「おっ。今日は彼女連れかい?」 そんな顔見知りの店主のからかいの言葉に、いつもなら笑って流すが、  今回は一緒にいる相手が相手なだけにどぎまぎしてしまった。 「いや…っ、これは…っ、その……っ」 慌て返事をしてみるがしどろもどろ。 店主はそんな「らしくない」アスマに怪訝そうな顔をする。 「何、本当に彼女?」 「ちが…っ違う違う!」 「何だい…」 まだしどろもどろなアスマに店主はすっかり呆れ顔。 アスマの背後にいるハヤテは不思議そうな顔でアスマと店主の様子を眺めていた。 テーブル席に向かい合うように座ると、アスマはメニュー表を差し出してきた。 「何でも好きなモン頼みな。俺の奢りだから」 「え…っ」 「俺から誘ったんだし俺が奢るのが定石だろ」 「…え…そんな…」 「いいからいいから。遠慮すんなって!」 「はあ…」 とりあえず、ハヤテはメニュー表に目を落とした。  居酒屋らしく、やはり酒と肴ばかりが目立つ。 二人して数少ない定食を頼む。アスマは一緒にビールも注文する。 「呑まないのか?」 「あの…呑めないんです…すみません…」 「あ、そうなんだ?でも特上で飲み会よくやってるんだろ?」 「あまり参加しませんし…参加してもお茶飲んでるだけです」 「ふうん…」 一番に運ばれてきたビールを、アスマはぐびぐびと美味そうに飲み出す。 「あの…」 二人の料理も運ばれてきて数回箸をつけた頃、不意にハヤテが話し掛けてきた。 「どうして…私を食事に誘ったんですか?」 「え」 「だって…今まであまりお話しした事もありませんし…  今…こうして一緒に食事しても…その…楽しくないでしょう…?」 「いや、全然。俺は楽しいぞ?」 「……そう、ですか…?」 少し泣きそうな顔をしてハヤテは俯く。 「俺と一緒に食事すんの…もしかして、嫌…だったのか?」 一番恐れていた事だった。  自分だけ嬉しくて浮かれていたけど、本当はハヤテはただ断れなかっただけではないか…。 だが、そんな心配は杞憂だった。 「いえ…っ、そんな事は…無いんですけど…っ」 俯いていた顔を上げ、ハヤテは必死に否定する。 そんな言葉にアスマはとりあえず一安心した。 「なら、いいだろ?」 「…どうして、私を食事に誘ったんですか?」 「ハヤテと一緒に飯食いたかったから」 「どうしてですか?」 「…んーと…何か、気になってたんだよな…」 照れを隠すように、アスマは少しそっぽを向き頬をポリポリと掻いた。 だが、その返答はハヤテに更なる疑問点を抱かせるだけだった。 「どうして…ですか?」 「…んーと……」 何て答えたらいいのか。このまま勢いでコクるのか。  いやもう付き合ってる奴いるらしいしコクられても断られるだろうし、何より迷惑だろう。 アスマが返答に詰まっていると、突然二人が向かい合っているテーブルに何かが運ばれてきた。 「ほいっ」 店主が、クリームソーダをハヤテの前に置いた。 きょとんとした顔でハヤテはその店主の顔を見る。 「あの…これ…注文してないんですけど…」 「サービスだよ!」 「え…」 「いいじゃないか、一緒に飯食いたかった。それだけでさ!」 「…はあ……」 「先生もしっかりやりな!せっかく可愛い子と食事まで持って来れたんだからさ!」 そう言って、店主はアスマの大きな背中をバシンッと音をたてて叩いた。 「だから…違うって…」 厨房に戻っていく店主の背中に向かって、言い訳のように小さく呟く。 サービスで届けられたクリームソーダをストローで啜ったり、 アイスクリームをスプーンで掬って少しずつ口に運ぶハヤテを、アスマは無意識のうちにじっと見詰めていた。 そんなアスマの視線に気付いたハヤテが顔を上げるとすぐにアスマと目が合ってしまった。 アスマの方は顔を赤くして慌てたようにそっと視線をずらす。 「あ…食べますか?」 アスマの視線を、クリームソーダだと勘違いしたハヤテはそう言って  今まで口つけていたクリームソーダを、スプーンごとアスマの目の前にすーっと滑らすように移動させる。 「あ…いや…その…」 クリームソーダが食べたいのだと勘違いされた事より、  このまま自分がクリームソーダを食べると間接キスにならないかとどぎまぎしてしまう。 だが、今回もまた理性より本能の方が勝ってしまった。  気が付けばクリームソーダの器とスプーンを握っていた。 ゆっくりとストローに口を近付けていく。 自分で自分の鼓動の高鳴りが聞こえる気がした。 ストローをくわえ、甘くて人工的な緑色の炭酸水を吸い上げる。 スプーンでアイスクリームを掬って口に運んでいると、突然ハヤテがくすくすと笑い出した。 「あ…すみません…アスマさんとクリームソーダがあまりにも不釣り合いで…」 そう言いながらもハヤテはまだくすくすと笑っていた。  笑い方があまりにも可愛くてアスマはスプーンを持ったまま動きを止めてハヤテを見詰めていた。 「こういうのはハヤテの方が似合うだろ」 自分の胸の高鳴りを誤魔化すように、アスマはクリームソーダの器を再びハヤテの前へ移動させた。 「もういらないんですか?」 「ああ。ハヤテが飲みな」 「じゃあ、いただきます」 にっこりと可愛らしい笑顔を浮かべてハヤテはクリームソーダに取り掛かる。 今まで見た事が無い程の笑顔だった。 見た瞬間、心臓が高鳴り過ぎて口から飛び出るかと思った。 か、可愛い…! あんな可愛い笑顔を見せられて自分はこのまま死んでしまうのではないかと本気で思った。 食事を終え、会計へと向かうと、アスマの後ろからついてきたハヤテはおもむろに財布を取り出してきた。  その様子を見て慌ててアスマはそれを制する。 「だから俺が払うって」 「割勘でいいんじゃないですか?」 「いやいや俺が払う。つか払わせてくれ」 「でも…」 「楽しませて貰ったしさ」  本当に楽しそうに笑いながらそう言うアスマに、ハヤテは驚いたように目を丸くした。 「御馳走様でした」  店を出ると、ハヤテは丁寧にぺこりと頭を下げた。  黒髪が揺れる。  ハヤテが顔を上げると、鎖骨の間のネックレスが光って見えた。  シルバーの、小さな十字架。 「……そのネックレス……」  装飾品をつけそうなイメージの無いハヤテだけに、そのネックレスは意外なものだった。  店に入る前から気付いていたが、何となく声をかけそびれただけなのだが。  アスマがネックレスの事に触れると、ハヤテは何だか少し嬉し恥かしといった感じの表情をした。  そっと、ネックレスのトップを優しく握り締めると、口を開く。 「ゲンマさんと、お揃いなんです」  その言葉を聞いた瞬間、アスマはかなりの衝撃を受けた。  いや、勿論「ゲンマとハヤテが付き合っている」という事は聞いてはいたが、  ハヤテ本人の口から聞くとまた別の衝撃がある。  そして、それと同時に現実を付き付けられた。  忘れかけていた嫌な事を無理矢理思い出された感じというのか。  衝撃を受けて頭の中が一瞬にして真っ白になったアスマに気付かない様子で、  ハヤテはそのネックレストップの十字架を裏返して見せる。  そこには、「G」の文字が彫られている。  まさか…… 「ゲンマさんの名前の頭文字です」  ああ、やっぱり。  ……という事はまさか……  お揃いという事なんだから…… 「ゲンマが付けてるのにはハヤテの名前の頭文字『H』が入ってるとか?」  アスマがそう言うと、ハヤテは俯いたまま赤くなっている顔をこくりと頷かせた。  恥かしそうに。  だが、その表情はとても嬉しそうだ。 「…………そっか……ゲンマの事、そんなに好きなんだな」 「えっ」  辛そうに言うアスマの声に、驚いたハヤテは顔を上げた。 「いや、その……さ、えっと……」  まるで吸い込まれるような程大きな漆黒の瞳に真っ直ぐに見詰められ、アスマは言葉に詰まる。 「…………」 「……ゲンマと別れてくれって言ったら……怒る、よな……?」 「…………何でですか?」  少し怪訝そうな顔で首を傾げる。  怒っていると言うより困っているような、困惑しているような。 「いや……その……、もし、ゲンマと別れてくれるなら……」 「…………」  段々と、ハヤテが泣き出しそうな顔になってきた。 「俺と、付き合ってくんねーかなと……思ってさ……」 「………!」  ハヤテが、息を飲み込むのがわかった。  驚きを隠しきれない顔をしている。 「……ゲンマさんと、付き合いたいんですか……?」 「は!?」 「……え?」  恐る恐る訊ねてきたハヤテの言葉へのアスマの間の抜けた即答に、ハヤテが思わず聞き返す。 「ゲンマさんと……付き合いたいんじゃ、ないんですか……?」 「違う違う! 別にゲンマに興味ねぇし!」 「そう、ですか……」  ほっとしたように胸を撫で下ろすハヤテ。 「じゃあ、誰の事を言ってるんですか?」 「だからー、その……、俺は……ハヤテと付き合いたいの!!」  思い切って叫ぶように言った。 「…………」  一瞬、ハヤテはアスマの言葉の意味がわからなかった。  数秒間、無言のまま佇んでいた。 「……え……」  やっとハヤテの口から出てきた言葉は、これだった。  何て言えばいいのか、わからなかった。 「ゲンマと別れて、俺と付き合ってくれ」  意を決し、アスマはハヤテの前に向き直り、真顔で言った。  ハヤテはただただ困惑して何も答えられなかった。 「あ、あの……」 「……ん?」 「お気持ちは嬉しいんですけど、ゲンマさんと別れる事は出来ません……」 「…………」 「だから……その……アスマさんの気持ちには応えられません……ごめんなさい」 「そっか……そうだよな」  わかっては、いた。  所謂「ダメモト」で言ってみただけに、それ程ショックが大きかったわけでは…  いや。  かなりショックだった。  付き合えるとは思ってもいなかったし、ネックレスの件でお互い好き合っている事も認識できたわけだから、  別れてくれるとも付き合ってくれるとも全く考えていなかったが、やはり正面切ってそう言われるとショックだった。 「そうだよな……」  アスマはまるで煙草の煙を吐くように溜め息混じりに呟いた。  自分でも驚くほど落胆していた。  肩を落とし、俯いた。 「あ、あの……別にアスマさんの事が嫌いなわけではありませんから……誤解しないで下さいね」  アスマのそのあまりもの落胆振りに、ハヤテは慌ててそう言った。  俯いていたアスマは、ハヤテのそんな心遣いが涙が出そうになる程嬉しかった。 「…お前…いい奴だな…」 「え…っ」 「だから…好きなのかも知れねぇな…」 「……」 「ま、忘れてくれ。じゃあな。今夜は楽しかった」 片手をひらひらと振りながらアスマはハヤテに背中を向け、歩き出した。 背中にハヤテの視線を感じてはいたが、振り返らなかった。