タイトル『黄菖蒲』
月が輝いている。
妖しく、輝いている。
まるで、人々を惑わすかのように。
今夜は、そんな月夜だった。
とても月が綺麗だった。
息が止まるかと思った。
それぐらい、綺麗。
星は一つも出ていない。
あの黒い雲に隠れているのかも知れない。
ずっと、夜が嫌いだった。
暗闇に飲み込まれそうになるから。
気を張っていないと、闇に飲み込まれて帰れそうになくなるような気がした。
自分は独りなんだって思えてくるから。
何故だったんだろう。
でも、彼を好きになってから、彼の名を知ってからは、夜が好きになった。
彼の名に、月が入っているから。
苗字だけれど。
昼にもたまに月が出ているけど、あれは彼の月じゃない。
彼の月は、夜に出て輝いている月。
人々を惑わす為に輝いているような月。
彼の笑顔も、そんな笑顔のような気がする。
滅多に笑わない人だけれど。
時々見せる笑顔は、とても素敵だった。
普段はあまり若々しさを感じさせない人だったけど、彼の笑顔はとても幼かった。
一言で言えば、可愛い感じ。
多分、そう思っているのは
だけだろうけど。
彼は、とても優しい人。
彼は、とっても優しい人。
誰に対しても、優しい人。
神様って、いるのかな。
もし、もしも、いるのだとしたら。
は、神様に文句を言ってやりたい。
どうして、あんないい人を遠くへ行かせたの。
どうして、あんないい人を
の前から消したの。
どうして、
が好きになった人ばかり、遠ざけるの。
どうして・・・
「明日はいい天気だろうな」
窓の外を見ていた
は、弟の
のそんな台詞で我に返った。
お風呂から上がったばかりの
は、洗ったばかりの髪を、白いタオルで拭いている。
身体から、白い湯気を漂わせている。
冷蔵庫から、珈琲牛乳を取り出すと、腰に手をあてて飲みだす。
オヤジ臭いからやめなって言っても、彼はそれを止めない。
は、そのポーズが苦手。
お兄ちゃんも、お風呂上りはそんなポーズをとってフルーツ牛乳を飲んでいた。
だから、そのポーズを見ると、いつもお兄ちゃんを思い出す。
十年前、任務中に殉職した、
より十三歳年上の
お兄ちゃん。
「星が出ていない夜の次の日は天気が良くなるって言うじゃん?」
何も答えない
を心配してか、
は明るい口調だった。
最近、
だけでなく、コテっちゃんやイズモん達も、アンコさん達も必要以上に
に優しい気がする。
あの、いつも冷たかった不知火さんでさえ、優しい言葉をかけてきてくれる。
どうしてだろう。
次の日は、
が言ったとおり天気が良かった。
暑いぐらいに。
雲一つ無く、快晴だった。
気持ちがいい筈だけれど、
の心の中は何故か晴れていなかった。
何だろう。
この、心が空っぽのような気持ちは。
何かが足りない。
そんな、気がする。
「おはようございます」
事務所の扉を開けながら、いつも通り挨拶をした。
だけど、事務所の中にはあまり人影は無かった。
山城さんと、不知火さんしかいない。
きっと、皆任務なんだろうな。
此処にいない人、皆任務に行ってるんだ。
何故かわからないけど、自分にそう言い聞かせていた。
伝説の三忍とまで謳われた、あの大蛇丸の手による木の葉崩しが終結してから、まだ数週間しか経っていない。
三代目の葬儀は終わった。
木の葉崩しの犠牲になった忍たちの葬儀も一緒に。
写真しかない葬儀。
真ん中に、大きな三代目の写真。
その左右に、犠牲になった忍達の写真が並んでた。
その中に、彼の写真もあった。
・・・
英雄?
死んだ後じゃなきゃ、英雄って呼ばないの?
何の為の英雄?
この里の為に命を捨てた英雄?
この里を守る為に命をかけた英雄?
そういう人達を、英雄と呼ぶことしか出来ないの?
この里は。
「
の分の書類、机の上においてあるから」
書類に目を通したまま、千本を銜えて額当てを逆向きに巻いた、黙っていれば美形の部類に入るんじゃないかって思えるお兄さんは、
にそう言った。
彼の台詞の中に、
の名前が入っていなかったら、
は多分それが
に向けての台詞だとは気付けなかっただろうな。
「人手が足りないからって、今度お前にも任務が来るみたいだぜ? 良かったな、お前任務やりたくてやりたくて仕方なかっただろ」
書類を一枚捲りながら、そのお兄さんはそう言った。
それが、不知火さん。
「ええ、まあ」
「この前の草むしりみたいな事はやめろよ」
この前の草むしりの任務。
上忍の人達が手を離せないからって、何故か
にご指名が来た事があった。
下忍の女の子達ー春野サクラちゃん、山中いのちゃん、日向ヒナタちゃん、テンテンちゃんの四人ーを連れて、
が草むしりに行ったのだ。
あの日も夏みたいに暑い日で、其処は日陰が無い場所だった。
其処で小一時間は草をむしってろ、何ていう非人道的な任務。
そんな事してたら熱射病か日射病になっちゃうよ。
だから、
は下忍の女の子達を下がらせて、其処に生え放題の草を火遁の術で燃やしたのだ。
勿論、火事にならないように水遁の術で火を消したけど。
その事がバレて、火影様に叱られたっけ。
そして、お前には任務は当分任せない、と言われた。
流石に、同僚の皆に呆れられた。
「あれはすごくいいやり方だと思うんですけどねぇ」
何がいけなかったのかな、あれは。
今でもそう思う。
一番楽で時間も掛からないやり方だと思うけど。
「チャクラを使いすぎだ」
いつもの不知火さんの口調。
呆れてものも言えねぇなって感じの口調です。
「・・・それは言えてますね」
「あんま、無理すんなよ」
「え、
、別に無理なんかしてませんよ?」
「俺達にはしてるように見えるんだよ」
「え〜?」
何言ってるんだ、美形なのにおかんみたいなこのお兄さんは。
「休みたい時は休め」
珍しい事を言うもんだ。
「え・・・何言ってるんですか。ただでさえ人手が足りないってのに
だけが休むわけには行かないじゃないですか」
「でも無理して倒れられるとこっちが困るんだよ」
「
、そんなヤワじゃないですよ。これでも鍛えてますから」
「・・・・杞憂だったらいいけどよ」
不知火さんは、一度も
の方を向かなかった。
書類に目を向けたまま。
まるで、あの人みたい。
木の葉崩しの犠牲になったと言われてる、あの人。
英雄の慰霊碑に、名前を刻まれてしまった、あの人。
駄目だ。
思い出したら、泣けてくる。
忍たる者、どのような状況におかれても感情を表に出すべからず。
は、いつでもそれを的確に守っているつもりだった。
でも、無理みたい。
あの人の顔を見ていると、例え任務で失敗して火影様に叱られて落ち込んでいても、心が弾むのが自分でもわかった。
自分の表情が、緩むのがわかった。
あの人が。
を見てくれる。
に声をかけてくれる。
に微笑みかけてくれる。
に、優しい言葉をかけてきてくれる。
例え生きるのに自信を失っていても、それだけで
は生きていけた。
それが、生き甲斐だった。
ううん。
の生き甲斐は、多分それだけだった。
の人生を、変えてくれた、あの人。
でも、その人はいない。
いつも、
の隣の席に座って、ゴホゴホ咳しながら書類に目を通していた。
刀を、嬉しそうに手入れしていた。
がいれたお茶を、美味しそうに飲んでくれた。
女の
より、肌が白くて体脂肪率低いだろうなって思える細い身体。
もう、あの声は聞けない。
もう、あの顔は見れない。
もう、あの口調は聞けない。
皆、そう言いたげだった。
でも、
は絶対に信じない。
あの人は、絶対に帰って来る。
だって、約束したもの。
を、一人にしないって。
それに、
は彼に、アレを渡したもの。
アレがあるから、彼は絶対に死なない。
絶対に、この里に帰って来る。
もし、万が一の事があったとしても
、彼の為に穢土転生を覚えるから。
禁術だけれど。
抜け忍になってでも、あの術を覚えて彼に又逢うんだ。
例え追い忍に殺されたとしても、最後に彼に逢えればいい。
そしてそのまま、彼の元へ逝ければ。
彼に逢えれば、
はそれだけでいい。
でも、きっと
が禁術の穢土転生を覚える事は無い。
だって、彼は死なないから。
私は、信じてる。
彼の生存を。
数週間後。
自来也さんと、ナルトくんが伝説のくノ一、綱手姫を連れて帰って来た。
自来也さん、大蛇丸とともに伝説の三忍と謳われた、くノ一だ。
彼女が、五代目火影に就任した。
それから暫くして。
不知火さんと、並足さんが入院した。
四人組の音忍にやられたらしい。
又、あの蛇オカマは何かやらかそうとしているらしい。
うちはサスケくんを、我が物にしたいらしい。
力を求めている、サスケくんを。
そんなに美少年が好きならジャニーズアイドルでも追っかけしてろよ(違
・・・そうか、オカマは美少年が好きなのか(だから違
でも、きっと美少年はオカマが嫌いな筈だ。
も、嫌いだ。
あいつの所為で、
の大切な人はいなくなったから。
いつ帰って来るかわからない人を待つ。
いつまでも、待ち続けている。
あの人が、帰って来るその日まで、
はいつまでも待っているつもり。
帰って来るか来ないかもわからない人を待つのはつらい。
でも、帰って来るってわかっている人を待つのはつらくも何とも無い。
わかっているから。
帰って来てくれるって。
絶対に、彼は帰って来てくれる。
仕事帰り、お花屋さんで花を買った。
黄菖蒲を何本か買って、花束にして貰った。
花言葉は「信じる者の幸福」
ちょっと、自分勝手かな・・・。
信じる者は救われるって言うし。
この花は、慰霊碑に持っていくつもり。
あの人へ、じゃない。
あの人は、あそこに名前を刻まれるべき人じゃないから。
この花束は、大好きな
お兄ちゃんへ。
殉職しなくたって、お兄ちゃんは
の中では英雄だった。
とても立派で、とても強くて、とても優しい、英雄だった。
お兄ちゃんこそが、英雄と呼ばれるのにふさわしい人だと、思ってた。
でも、この里の人達が、お兄ちゃんを英雄と呼び始めたのは、お兄ちゃんが殉職してからだった。
忍は、戦いの為の道具。
国の為に存在するもの。
だけど。
だけど・・・
気が付いたら、病院の前に来ていた。
不知火さんと、並足さんが入院してる病院。
・・・
どうせだから、お見舞いに行ってあげよう。
確か、あの二人は三階の相部屋だっけ。
扉をノックしたら、返事が聞こえた。
病室に入ると、入院患者の二人の他に、五代目とガイ先生がいた。
四人とも、深刻そうな顔をしている。
何かあったのかな?
「どうか、したんですか?」
「いや、何でもない」五代目は、
の言葉にそう返した。
「この花、不知火さんと並足さんに」
は、持っている花束から二本だけ出すと、それを二人のベッドの枕もとにある、水が入っているコップに挿した。
「菖蒲か?」その花を見て、並足さんはポツリと呟いた。
「ええ。黄菖蒲です」
「・・・で、その花束は」
不知火さんは、
が持っている花束を顎で指す。
「ああ、これは慰霊碑に」
「「・・・」」
するとその途端、二人は何か言いたそうな顔で、
を見た。
同情してるように、感じた。
「勘違いしないで下さいよ。これは、お兄ちゃんにあげるんです」
「
さんにか」「ええ」
「・・・・・・ハヤテには」「あげませんよ」
不知火さんの言葉に、
は即答していた。
自分でも驚くぐらい、その返事は早かった。
そして、自分でも驚くぐらい冷たい感じがした。
「何で」
「死んでいない人に、花はあげません」
「・・・
、お前・・・」
「何が言いたいんですか。言っておきますけど、月光さんは生きてますからね。
の中や、
の記憶の中で、じゃなくって、現実問題として生きてるんです。絶対、この里に帰ってきますから」
「信じられない気持ちはわかるけど・・・」
「月光さんが死ぬわけないでしょ!」
思わず、声を荒げていた。
不知火さんだけでなく、並足さんも驚いたような顔をしている。
五代目やガイ先生が、どんな顔をしているかは、わからない。
二人は、
の後ろにいるから。
「約束、しましたから。
を、一人にしないって。確かに言ってくれましたから」
「「・・・」」
「それに、アレを渡しましたし」「・・・アレ?」
「
家に伝わる、どんな願いも叶うお守りです」
「どんな願い、かけたんだ」「それは秘密です。それじゃ」
このまま此処にいると、泣いてしまいそう。
何でだか、わからない。
きっと、あの人の事を話したから。
泣き出しそうになるのを必死に堪えながら、お兄ちゃんの元へと向かった。
お兄ちゃんの名前が刻まれている、慰霊碑に。
どんな願いをかけたかって?
わかってるくせに。
死んだ人は、戻ってこない。
いつまで待っていても。
どんなに願っても。
だから、お兄ちゃんが生き返りますように、なんて願うわけない。
の願いは。
の、願いは・・・
・・・・・・
何度、この名前を指でなぞっただろう。
十年間、毎日のようになぞっていた。
此処に来れば、お兄ちゃんがいるような安心感があったから。
きっと、お兄ちゃんの中では、
はいつまでも十歳の子供なんだろう。
の中では、お兄ちゃんはいつまでも二十三歳のまま。
あと、三年で
はお兄ちゃんの年に追いつく。
そしたら、もうお兄ちゃんはお兄ちゃんでなくなるような気がする。
それが、今の
には怖かった。
「
ちゃん」
不意に、名前を呼ばれた。
振り返ると、其処には長い黒髪を靡かせた、綺麗な女の人が立っていた。
花束を持っている。
アリサさんだ。
月光アリサさん。
あの人の、お姉さん。
「アリサさん・・・」
「あなたも、花を?」
「ええ。
はお兄ちゃんに、ですけど」
「そう。
先輩に・・・」
アリサさんは呟くように言うと、
の隣に座って、持って来た花束を慰霊碑の前に置いた。
が置いた、花束の隣に。
そして、目を閉じて両手を合わせた。
そういえば、
は一度も慰霊碑に手を合わせた事なんて、なかった。
ただの、生きている人間のエゴだって、幼い頃からわかっていたから。
「・・・アリサさんも、思ってるんですか?」
「え?何を?」
目を開けたアリサさんに、私は訊ねてみた。
大きな目を見開いて、彼女は
の方を向いた。
綺麗な人。
「月こ・・・ううん、弟さんが、死んだと思ってるんですか?」
「・・・どういう事?」
「ううん、いいんです。もう。誰も信じていなくても、誰も待っていなくても。
だけでも、信じて待っていてあげないと」
「・・・」
の話を聞いて、アリサさんは可哀想なものを見るような目をした。
は、みんなのこういう目が嫌い。
は、本当の事を言っているだけ。
信じてるとか、
の話している事は皆、ただの推測論みたいにしか思っていないみたい。
でも、これはただの推測論なんかじゃない。
これは、事実。
あの死体は、偽物。
皆が騙されている。
騙されて、慰霊碑にまで名前を刻んでしまった。
莫迦みたい。
は、間違ってなどいない。
「
、夕飯の買出ししなきゃいけないんで、失礼します」
無理に笑顔を作って、その場を去った。
これ以上此処にいると、泣きそうになってくるから。
書類に向き合ったり、任務をしたり。
あれから、どれぐらい時が流れただろう。
きっとまだ、一ヶ月ぐらいしか経っていないとは思う。
事務所の窓から見える、樹の葉の色が変わっているのに気付いた。
・・・・・
さっきまで降っていた雨が上がってる。
そして、凄く晴れてる。
快晴。
虹が見えるかも。
そう思って、窓に近付いた。
・・・やっぱり。
「虹だ!」
思わず、声に出していた。
すると、事務所内にいたアンコさんと山城さんも、窓の外を見た。
「ホント」「虹だな」
「綺麗・・・あんなにハッキリと色が見える・・・」
七色全てが綺麗にハッキリと見える、そんな虹だった。
あんな綺麗な虹、今まで見た事無い。
何か、いい事ありそう・・・。
・・・・・・
もしかして。
そう思うと、その場でじっとしていられなかった。
事務所から、駆け出していた。
アンコさんの怒鳴るような声が聞こえたけど。
振り返りもしなかった。
ただ、あそこへ向けて走っていた。
慰霊碑へ。
花も買わずに此処に繰るなんて、はじめてかも知れない。
花を買う時間があるなら、その時間をつかってでも走って、少しでも早く辿り着きたかった。
でも、其処はいつもと同じ。
無機質な石が、一つ置いてあるだけ。
これが、英雄と呼ばれる人達の墓標?
だとしたら、何て寂しい墓標なのだろう。
何て悲しい最後なのだろう。
これが、忍として生きる事を決めた人の末路なのか。
気配。
ふと、気配がした。
誰かが、
の後ろにいる。
振り向かなくても、それが誰なのかわかった。
とても懐かしい、とても優しい、そんな気配。
振り向こうとした。
だけど。
何故かわからないけど、身体が動かない。
もしかしたら、振り向くのが怖いのかもしれない。
それを、本能で感じているのかも・・・。
でも。
意を決して、振り返ってみた。
すると。
其処には、思ったとおりの光景が広がっていた。
が、ずっと待っていた人。
が、ずっと想い続けた人。
が、ずっとずっと・・・
木の葉隠れの里の、額当て。
それを、頭部を覆い隠すようにかぶっている。
森乃さんや、イズモんと同じ巻き方。
その額当ての左右から、耳と首筋を隠すように黒い髪を覗かせている。
真ん中からも。
その髪と同じ、黒い目。
目の下には、寝不足みたいなクマ。
黒い髪が映える、白い肌。
ずっとずっと、大理石みたいだと思ってた白い肌。
より背も高いのに、細い身体。
彼は、
と目が合うとにっこりと微笑んだ。
すッごく優しい笑顔で。
これは、夢?
幻?
誰かの幻術?
ゆっくりとした足取りで、彼は近付いてきた。
彼は、慰霊碑の前で跪くと、それに触れた。
自分の名前に。
「やっぱり、私の名前・・・ありますね」
彼は面白いものを見つけたように、微笑む。
本物?
偽物?
それを探る為に、
は行動を起こした。
ちょっとだけ手加減して、木の葉烈風。
すると彼は、背中の刀を鞘ごと取り出すと、それで
の蹴りを防いだ。
「いきなり、何するんですか」
怒っていない。
穏やかな、口調だった。
「本物、ですか」
平静を装う。
自分でも笑っちゃうぐらい、震えていたけど。
「ええ」彼は立ち上がり、
の前に立った。
「信じられませんか?」
「あっ、当たり前じゃないですか!」
「信じてくれていたんじゃないんですか」
「・・・!」
「あなたが信じていてくれたからこそ、私は帰って来れたんです」
「ど、どういう意味ですか・・・」
「帰ろうかどうしようか迷ってたんです」
「え・・・」
何言ってるんだ、このお兄さんは。
このお兄さんの居場所は、この、木の葉隠れの里しかない。
此処しか、ありえない。
なのに、帰ろうかどうしようか迷ってたなんて・・・
「私は死んだと思われた。だから、慰霊碑に名を刻まれた。帰っても、もう居場所は無い。誰も、帰りを待っていない・・・そう思ったんです。だから、帰っても意味無いのではないかと・・・」
「そんな事!」
「ええ。たった一人でも、信じて待っていてくれるのなら帰ろうと思いまして。その、信じて待っていてくれたのが、
さんだったんです」
「
・・・?」
「それに、約束しましたからね。あなたを、一人にしないと」
「・・・」
「・・・あ、そうそう・・・」
と、彼は懐から何かを探し始めた。
そして、何かを取り出した。
の前に差し出し、広げた掌の上には、ペンダントがある。
ペンダントトップの、クリスタルがひび割れてる。
「すみません、壊してしまって・・・」
彼は、物凄く申し訳なさそうに言う。
それは、
があの時彼に渡した、お守りだった。
家に伝わる、どんな願いも叶えてくれるというお守り。
「そのお守り、お兄ちゃんの形見だったんです」
「す、すみません・・・」
「いえ、責めてるんじゃないんです。十年前のあの日まで、これはお兄ちゃんを守ってくれてたんです。あの、九尾事件の時だって、お兄ちゃん、これを持っていったから助かったんですよ。でも、あの日、最後の任務の日・・・お兄ちゃんは、このお守りを忘れて行ったんです。だから、あんな事になっちゃったんです。慰霊碑に、名前を刻まれる事になっちゃったんです・・・。
は、そう思ってます。だから、それは月光さんの代わりに、砕けたんだと思います。
の大切な人を、月光さんを守る為に。月光さんが、生きて帰って来る為に」
「・・・
さん・・・」
「
、願いませんから。もう、願いません。一緒になりたいとか、両想いになりたいとか、
の想い人も、
の事を想ってくれますように、なんて願いません。だから・・・だから・・・
を、一人にしないで下さい・・・・・これって、わがままな願いですか・・・・・・?」
「・・・人には、誰でも幸せになる権利ぐらい、ある筈です」
「じゃあ、いつまでも生き続けて下さいね、月光さん」
「・・・」
「
の幸せは、月光さんが幸せである事。月光さんが生きてる事。月光さんがそばにいる事。そして・・・」
「・・・」
「月光さんが、
の想いに答えない事」「・・・」
何か言いたそうに、
を見ている。
でも、
は彼が何か言う前に、話題を変える事にした。
「不知火さんと、並足さんに、逢いに行きません?」
「ゲンマさんと、ライドウさんにですか」
「ええ、あの二人、入院してるんです」
「何か、あったんですか」
その途端、彼の表情が変わった。
「・・・食中りです。アンコさんの手料理食べたら、倒れちゃったんです」
「・・・」
嘘をついちゃった。
せっかく帰って来た人を、心配させたくなかったから。
でも、アンコさんの料理の下手さは有名。
疑ってないみたい。
「あの二人を、驚かせてみましょうか」
「ええ」
達は、二人が入院してる病院へと向かった。
あなたを、一人にしません。
あの言葉、
は信じてた。
だから、生きてこれた。
だから、信じてこれた。
あなたが帰って来るって。
黄菖蒲の花言葉は、「信じる者の幸福」
、信じてた。
だから、幸せになれた。
彼が生きていれば、それだけで
は幸せ。
彼の幸せこそ、
の幸せ。
別に、強がりとかそんなんじゃない。
は、心の底から、彼の幸せだけを願ってる。
彼が幸せなら、それだけでいい。
彼が笑って暮らして行けるのなら、それだけでいい。
は彼のそばにただの同僚として存在していて、戦友ぐらいになれればいい。
彼の横顔を、見ていたい。
彼の声を、聞いていたい。
彼の匂いを、感じていたい。
彼の存在を、感じていたい。
そして・・・
彼の幸せを、感じていたい。
ずっとずっと、彼の幸せだけを祈り続けていたい。
の大切な人が、いつまでも生きて、いつまでも幸せでありますように。
は、不幸になってもいい。
だから、その分
の幸せを、この人にあげて下さい。
の隣で微笑んでいる、この人に。
もう、
から大切な人を奪わないで下さい。
神様。
〜終〜
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