+++ 星 月 夜 +++  星が、とてつもないぐらい綺麗な夜だった。  こんな星月夜に、人と人が殺し合っているなんて。  とてもじゃないが、信じられなかった。  だが、自分達も人殺しなのだ。  人を殺めるのが仕事。  殺すか、殺されるかの世界に、住んでいる。 「隊長」  野営テントから、一人の優男風の青年が出てきた。  里から配給されている忍ベストを着て、額には里の額当て。  薄い金髪を夜風に靡かせながら、こちらをじっと見詰めている。  自分が想いを寄せていた人物と、酷似している容姿。  それだけでなく、その人物と、血が繋がっている存在。 「どうだ? あいつ等の怪我の様子は」  「自分が想いを寄せていた人物」と姿を重ね合わせかけた。  だが、それを振り切るように、小隊の隊長である男は、隊長らしくきびきびと訊ねる。 「私のチャクラ切れで、医療忍術が使えませんでしたので、応急処置程度ぐらいしか……」 「まあ、戦いっぱなしだったから仕方無いだろう。もうすぐ本隊と合流できる。それまでもつか?」 「はい」 「そうか。……お前も少しは休め」 「いえ、もうそろそろ見張りの交代……」 「いや、俺は大丈夫だ。それよりお前は休んでいろ。休めばチャクラも復活するだろう」 「あ、はい……」  小隊の隊長である男にそう言われ、その青年は再びテントに入っていった。  隊長と言っても、男は小隊メンバーの最年少だ。  だが、それでも男は上忍で、四人小隊の残り三人は皆中忍。  隊長以外皆、二十歳を越えている。 「隊長……少しは、お休みになられた方が……」 「俺なら大丈夫だ」 「でも、一番戦っていたのは、隊長じゃないですか」 「確かにそうかも知れんが、俺は小隊の隊長だ。お前達の命を預かっている」 「…………」 「眠れないのか?」  テントの出入り口から顔だけ出してこちらを見ている青年を振り返りながら、男は揶揄するように言う。  だが、男の揶揄には気付かないのか、青年は真面目な顔で受け答える。 「いえ、眠れないんじゃなくて、寝るのが勿体無いと思うんです」 「……勿体無い?」 「ええ。だって、すっごく綺麗じゃないですか、夜空……」  自分と同じ事を考えていた者が、こんなにすぐ傍にいたなんて。  青年は、微笑みながらテントから出てきた。  そして、男が腰掛けている丸太の隣に腰掛けた。 「寝るのが、勿体無いぐらい綺麗…………。不思議ですよね」 「何がだ?」 「だって、星がこんなに綺麗なのに、私達は人を殺めてるんですよ?」 「…………」 「もしかしたら、私達が殺した人達って皆、ああいうふうに夜空を彩る星になるのかも知れませんよね」 「…………」 「……あれ? もしかして、私……ハズしちゃいました?」 「ああ、ハズしてるな」 「そんなぁ〜」  そう言って、その青年はしゅんとした。  そんな彼を見て、男はくすりと笑った。  だが、男の笑い声に、青年は顔を上げる。 「あ、笑った」 「……ん」 「いっつもむす〜っとしてるから笑う事、知らないのかなって思ってました」 「……俺はそんなにむすっとしてるか?」 「ええ、そりゃもう」 「…………」  あはは、と青年が笑うと男は再びむすっとする。  だが、それは無意識にやってしまっている事で。  それでも、青年は怒らせちゃったかな……と俯いてしまった。  そんな青年の反応を見て、男は少し慌てたように言う。 「別に怒ってるわけじゃないぞ」 「……そう、ですか。良かった……」  男の言葉に、青年は少し嬉しそうに微笑んだ。 「どうして、いつもそうむすっとしてるんですか?」 「……俺は、そんなにむすっとしているか?」 「と言いますか……実をいうと、私はあまり隊長の笑い顔って見た事無いんですよね……」 「忍は感情を表に出すべからず」 「……わかってますよ。わかってますけど……でも、それは任務中だけでいいじゃないですか。  実生活でも、感情を表に出してなかったら寂しいだけじゃないですか」 「別に、寂しいと思った事は無い」 「…………」  男の言葉に、青年はまるで拗ねたような顔をした。 「夜叉丸」  不意に、男は青年の名を呼んだ。  小隊長に名を呼ばれた青年は驚いて顔を上げる。 「はっ、はい……っ」 「お前は、休まなくていいのか? あいつらの回復も出来ぬ程のチャクラ切れなのだろう?」 「……え……」 「朝まで俺が見張りをしておく。お前は休め」 「でも……! そしたら隊長が……」 「俺はお前達の中では最年少だが、この小隊の隊長を任されてる上忍だ。中忍風情に心配される筋合いは無い」 「……はい……すみません……」  小隊長のその言葉に、夜叉丸と呼ばれた青年はしゅんとなり、テントに再び入っていった。  それを確認してから、男は自分の目の前の焚き火の中に、拾ってきた棒切れを入れる。  少し言い過ぎたような気がしないでも無いが、ああでも言わなければ夜叉丸は引き下がらなかっただろう。  溜め息を一つつき、焚き火を眺めていると不意に何かが肩に掛けられた。  振り返ると、其処には夜叉丸がいた。  毛布を、男の肩に掛けたのだ。  気配で気付いていたので、驚きはしなかった。 「何のつもりだ?」 「……寒いかな、と……思って……」 「…………」 「あ……ご迷惑……なら………」 「いや……」  慌てて、夜叉丸は男の肩に自分が掛けた毛布をしまおうとした。  だが、男はそんな夜叉丸の手を優しく掴み、止める。 「このままで、いい」 「……そう……ですか………」  彼女も、これぐらいだろうかと思いつつ、男は夜叉丸の手首を掴んでいた。  困惑している夜叉丸の視線に気付き、少し慌てて男は夜叉丸から手を離した。 「寝るのが勿体無いと言ったな?」 「ハイ?」  テントに戻ろうかどうしようか迷っている足取りの夜叉丸に、男は声を掛けた。  突然声をかけられ、夜叉丸は驚いたように素っ頓狂な声を上げた。 「見てみろ。星が、空を埋め尽くしているぞ」 「……ホントに……」  男の言葉に、夜叉丸は空を見上げる。 「隊長……あの……」 「何だ?」 「隣、座っても……いいですか」 「ん? あ、ああ」  男がそう答えると、夜叉丸は少し嬉しそうに微笑み、男が腰掛けている丸太に腰掛けてきた。  ちょうど、男の隣に。  夜叉丸が座ってくると、夜風と一緒に夜叉丸の匂いが伝ってきたような気がした。 「綺麗ですね」  夜空を見上げ、夜叉丸はぽつりと呟く。  男も夜空を見上げ、夜叉丸の言葉に頷く。 「…………隊長は、姉さんの事……好き、なんですよね」  突然、夜叉丸はそんな事を呟いた。  一瞬、男は夜叉丸が何て言ったのかわからなかった。  思わず、夜叉丸の横顔を見詰めた。  すると、夜叉丸も男の方を向いてきた。  二人が目が合うと、夜叉丸は優しく微笑む。 「わかりますよ。自分の好きな人が、誰を愛しているかぐらい……」 「………………え?」 「隊長が、僕を……姉さんの……加流羅の弟としてしか見ていない事ぐらい、わかってます」 「…………」 「それでも、いいんです」 「…………」 「……それでも………」  夜叉丸が何か言いかけた、その時だった。  テントの中から、唸る声が聞こえてきた。  どうやら、怪我をして夜叉丸に治療を受け休んでいた隊員が目を覚ましたらしい。  痛みで、唸っているようだ。 「大変。早く痛み止めを打たないと……っ」  ぽつりと呟きながら、夜叉丸は丸太から立ち上がった。  そしてそのまま、すぐにテントの中に入っていった。 「どうだ?」  テントの中を覗き見ながら、男は唸っている隊員に痛み止めを打っている夜叉丸にそう訊ねる。 「少し、強い痛み止めを打ったので……もう、痛みの方は大丈夫だとは思うんですけど……」 「なら、お前はそいつ等の傍にいろ」 「は……ハイ……っ」  夜叉丸の言葉を聞きながら、男はテントから出て今まで座っていた丸太に再び腰掛ける。  消えかかった焚き火の中に、落ちている小枝を入れながら飛び散る火花を眺めていた。  夜叉丸は、男が夜叉丸の姉である加流羅に惚れている事を知っている。  だが、加流羅は四代目風影の妻であり、今現在風影の子を身篭っている。  最強の忍となるべく、子を―――    自分の想いを告げようと思った事も、告げる気も、全く無い。  考えた事も無かった。    気付けば、空が白んでいた。  夜明けだ。  もうすぐ、本隊と合流できるだろう。  合流後、うまくいけば恐らく3日以内には任務が終わる。  腰掛けていた丸太から立ち上がり、テントの中を覗いてみた。  すると、中では夜叉丸に痛み止めを打たれた怪我人の隊員二人と、夜叉丸が寝ていた。  夜叉丸は、まるで看病に疲れたように、倒れるように寝ていた。  そんな夜叉丸の上にそっと毛布を掛けてやると、夜叉丸はフッと目を覚ました。  寝惚け眼で、自分に毛布を掛けてきた男の顔をじっと見詰めている。 「起こしてしまったか……?」 「あ…何だ……隊長……」  まだ眠い目を擦りながら、夜叉丸は起き上がった。 「交代の時間には早い。まだ寝てろ」 「でも、隊長は……」 「俺なら大丈夫だ」 「でもぉ……」 「そんな状態で見張りをさせても意味は無い。寝てろ」 「……はぁい…」  すると、返事をしたと同時に夜叉丸はまるで倒れるようにその場に眠り込んだ。  そんな夜叉丸の上に再び毛布を掛けてやると、男はテントから出た。  何故か、全く眠気は無かった。  何の為に戦うのか、考え込んだ事など一度も無かった。  ただ、目の前にある敵を殺すだけ。  それだけだった。  それが、自分の生きる道だと思っていた。  夜が明けると、寝ている隊員たちを起こし、テントをしまうと苦戦しているらしい本隊と合流するべく、出発した。  本隊と合流後は夜叉丸が応急処置した怪我人の班員の治療を優先させ、ほぼ無傷の男と夜叉丸は戦いに加わった。  他の分隊も加わり、その戦いは一週間もしないうちに終結した。  そのまま、砂忍達は三日かけて里へと戻っていった。  数日後。  単独任務を終えた男が報告書を提出しに行こうとしている最中だった。  不意に声をかけられた。 「あっ、隊長〜」  振り返ると、其処には夜叉丸がいた。  その後ろに、この間の任務の時の隊員たちもいる。  もう怪我も癒えたのだろう。 「これから、この間の任務の反省会と称した飲み会やろうと思ってるんですけど、隊長もどうですか?」 「……俺は未成年だぞ」 「大丈夫ですよぉ。僕、下戸ですから」 「………お前たち3人だけで行くつもりだったんだろ?」 「うーうん。違いますよ。隊長も一緒に4人で行こうと思ってたんですよぉ。ねっ」  「ねっ」と、夜叉丸は自分の後ろにいる2人の男に声をかけた。  すると、その2人は無言で頷いた。 「悪いが、俺はこれから任務の報告書を……」  と、男は手に持った報告書をぴらぴらと見せた。 「じゃあ、提出してくるまで待ってますから」 「…………」 「ねっ、待ってるよねぇ?」  と、再び夜叉丸は自分の後ろにいる2人に訊ねた。  すると、やはりその2人は無言で頷いた。 「……わかった。じゃあ先に行っててくれ」 「はぁい! 砂肝亭で待ってますね」 「…………ああ」  男の返事を聞くと、夜叉丸とその後ろにいる2人は瞬身の術で姿を消した。  ついさっきまで、夜叉丸がいた場所を見詰め、男はフッと微笑んだ。  変わった奴だ、と。 <<<続く