+++ サンタが泣いた日 +++  黒い羽が、風に乗っていた。  そして、サスケの頭上で舞っている。  ふわり  ふわり    ゆっくりと、その羽は落ちてきた。  思わず、それを受け止めていた。  両手で。  大切そうに。  その羽が手に触れてきた瞬間、まだぬくもりが残っているような気がした。  見上げてみたが、空には黒い鳥は飛んでいない。  じっとその黒い羽を見たまま、どうしようかと考えた。  だが捨てるのも忍びないような気がして、その羽をポケットに入れた。  そしてそのまま、歩き出した。  7班の待ち合わせである、演習場へと向かっていた。  その途中で。  今ポケットに入れている黒い羽の主と思われる鳥を見付けた。  鴉だ。  毛並みが、凄く綺麗な鴉だった。  それだけでなく、目も綺麗な紅い色をしている。  数羽の鴉が其処にいたが、綺麗な紅い目をしている鴉は、どうやら一羽しかいないようだ。  其処にいる数羽の鴉達のすぐそばには、その鴉達と同じぐらい綺麗な黒い毛の青年がいた。  いや、髪だけでない。  肌も、目も、顔も綺麗な青年だった。  何処かで見た事がある人物だと思った。  思わず、隠れるように草叢の裏側で立ち止まって考え込んでしまった。  誰だったか。  …………  …………  ……そうだ。  思い出した。  中忍選抜試験、第三の試験、予選。  それの、審判だった忍だ。  頭部を覆い隠すように巻いていた額当てもしていなければ、忍装束も着ていない。  だから、気付かなかった。  確か、その時名乗っていた筈だ。  なのに、思い出せない。  審判が誰かより、その試験内容にばかり気を取られていたからだろう。  ただ、体調が悪そうな奴だと言う事しか、覚えていない。  その青年は、毛並みの綺麗な鴉達を頭上に飛ばせていたり、肩に乗せていたり、足元に座らせていたりしている。  あの試験会場とは違い、にこやかな笑顔を浮かべ、すぐそばにいる鴉達に微笑みかけている。  そしてその青年は、膝の上に黒い毛の塊を乗せていた。  何かと思い、少し離れた場所でじっと見ていると、時々それは動いた。  目を凝らしてよく見てみると、どうやらそれは黒い仔猫らしかった。  青年の膝の上で、すやすやと眠っているらしい。  時々、青年はその仔猫を撫でる。  不意に、青年の肩の上にいた一羽の鴉が飛び上がった。  そして、まるで何かに警戒するように、威嚇するように翼を羽ばたかせる。  青年の頭上で。  敵でもいるのか?  サスケは、辺りを見回してみる。  だが、辺りには誰もいない。 「紅蓮。大丈夫です。殺気はありませんし……敵ではないみたいです」  頭上にいる、その紅い目の鴉に青年は優しく言う。  そして、その鴉から、サスケが隠れている草叢に目を向けてきた。 「其処にいるんでしょう? 出てきたらどうですか」   優しく言う。  サスケが隠れている草叢に向かって。  その優しさに甘えるように、サスケはそっと草叢から出た。 「君は……、うちは……サスケくん、でしたっけ」  サスケが出てきても、驚いた顔は見せずに、青年はにこやかに言う。  どうやら、サスケが隠れていた事に気付いていたようだ。  膝の上の仔猫を撫でていた手を上げ、自分の黒い少し長めの髪を耳にかけるように撫でた。 「…………ああ」 「怪我は、もう大丈夫ですか」 「あ、ああ……」 「そうですか、良かった」  少し目を逸らしながら答えるサスケに、青年はにこやかに言う。  その笑顔に、サスケはますます目を逸らす。  サスケのその反応に、青年は別の解釈をした。 「……私の事、嫌い、ですか……?」 「いや……っ、べ、別に…………」  青年の言葉に、思わずサスケは背けていた顔を青年に向けた。  赤くなっているサスケの顔に、青年は可笑しいものを発見したようにくすくすと微笑んだ。 「冗談です。すみません」  微笑みながら、再び青年は膝の上の仔猫を撫でる。  すると、不意にその仔猫は丸めていた身体を起こした。  そして、四肢を伸ばして欠伸をする。 「おはよう、紫苑」  前足で顔を洗っている仔猫の頭を撫でてやりながら青年は優しく言う。  すると、紫苑と呼ばれた黒い仔猫は洗っていた顔を青年に向かって上げ、にゃあと高く鳴いた。  そして、頭を撫でてくる青年の手に擦り寄ったり、舐めたりしている。  だが突然、紫苑は何かに気付いたようにぴょん、と青年の膝の上で身を翻した。  何かと思えば、サスケの方を向いている。  フーッ、と唸っている。  どうやら、サスケを敵だと思っているのか、威嚇しているらしい。 「紫苑、大丈夫です。敵ではありません。木の葉の額当てをしてるでしょう」  紫苑の頭を撫でながら、青年は優しく呟く。  すると、紫苑はサスケに向かって上げていた唸り声をピタリと止め、再び丸くなった。 「すみません。紫苑は人見知りが激しくて」 「………いや……別に……」  青年の謝罪の言葉に、慌てたようにサスケは少し首を横に数回振る。  サスケの動揺に気付いているのか、それとも気付かないフリをしているのか、青年は再び丸くなった仔猫を撫でる。  仔猫を撫でている青年は、静かに穏やかに微笑んでいる。  突然、仔猫はピクリと耳を動かした。  かと思えば、仔猫はぴょこんと起き上がった。  そして、青年の膝の上から飛び降り、何処かへ向かって走っていった。  追いかけないのか……と言おうとサスケが青年の方を向いた、その時だった。  青年は、ベンチから立ち上がっていた。  幸せそうな笑顔で、仔猫が走っていった方向を向いている。  サスケも振り返ると、其処には自分達の担当上忍、カカシと同じ銀髪を肩に届くか届かないかぐらいの長さにしている男がいた。  その男の足元に、先程走っていった黒い仔猫・紫苑がいた。  懐いているらしく、銀髪の男の足に擦り寄っている。 「おお、紫苑か。相変わらずお前は美人だなー」  自分の足元に擦り寄っている仔猫を抱き上げ、頬擦りする。  銀髪の男の腕の中の仔猫も、男の頬に擦り寄ったり舐めたりしている。  サスケは、この銀髪の男にも見覚えがあった。  こっちは、中忍選抜試験第三の試験、本選の審判だった忍だ。  額当てを逆向きに巻き、千本を銜えていた。  そしてカカシと顔見知りのようだった。  だが、こっちは名乗っていない。  名前は、知らない。 「何度も言ってるでしょう。紫苑は雄です」  仔猫を抱き上げて頬擦りしている銀髪の男に向かって、ついさっきまで仔猫を膝の上に乗せていた黒髪の青年は少し困ったように言う。 「雄だろうが雌だろうが、美人は美人だ」 「だからゲンマさんは節操が無いんですよ」 「うるせぇな……ん? 其処にいるのは、うちはのガキ?」  と、その時、男はサスケに気付いたようだ。  サスケと目が合った。 「ああ、先程、少しお喋りしてたんです」 「お前が? 下忍と? 俺以外の同僚とも滅多にしないのに?」 「……ゲンマさんこそ、五月蝿いです。ゲンマさんが遅れて来たのがいけないんじゃないですか」 「まだ約束の時間、5分前だろ」 「私は30分前に来てたんです」 「…………お前、暇だな」  揶揄するような目を、青年に向ける男。  その目を見て、少々ムッとする青年。 「仕方無いでしょう。今日は任務無かったんですから。紫苑、おいで」  そっと青年が両手を伸ばすと、その胸に向かって黒い仔猫は飛び込んできた。  自分も、ああいう風に誰かの胸に飛び込みたい。  飛び込んでみたい。  そんな感情が、サスケの胸を横切った。  もし、もしも。  たった今、俺がこの人の胸に飛び込んだら、この人はどうするだろう。  その黒猫のように、受け止めてくれるのだろうか。 「じゃ、行くか」  青年の手を取り、男は微笑んで青年にそう声をかける。 「ハイ」  手を握られた青年は、穏やかな笑顔を男に向け、頷いた。 「……あ」  だが、突然青年は何かに気付いたように立ち止まった。  怪訝そうな顔で、男も立ち止まり、青年の顔を向く。 「紫苑をお願いします」  男と手を繋いでいる反対の腕で抱いている黒い仔猫・紫苑を男の胸に渡しながら、青年は男から手を離した。  そして、サスケの方を向き、近付いてきた。  サスケの目の前に来ると、ジーンズのポケットに手を突っ込み、何かを探しているようだ。 「はい、どうぞ」  探し物が見付かったのか、ポケットから手を出し、その手をサスケに向ける。  その手には、毛糸で編まれたマスコット人形が握られている。  サンタクロースの、小さな編みぐるみだ。 「……?」 「もうすぐ、クリスマスでしょう? クリスマスプレゼントです」 「……あ」  確かに、もうすぐクリスマスだ。  だが、それも一週間後。  少し早くないか? と思いながらも、サスケは何も言わなかった。 「……どうも」  青年からそのサンタクロースの小さな編みぐるみを受け取りながら、サスケは少し赤くなって俯く。 「メリークリスマス、です」  にっこりと笑顔を浮かべながら、青年はサスケに向かって言う。 「……お前、クリスマス信仰してねぇんじゃなかったのかよ? お前の家、仏教徒じゃねぇのか?」  いつの間にか、青年の真後ろに回っている男が揶揄するように青年に言う。 「ゲンマさんが毎年クリスマスクリスマスって五月蝿いからです」 「え? 俺、そんなにクリスマス騒ぎしてるかぁ?」 「ええ。プレゼント寄越せとか言ってるじゃないですか」 「そりゃあな。年に一回しか来ない特別な日は祝うもんだろ。『特別』上忍として」  そう言う男は、「特別上忍」の「特別」の部分を強調して言う。 「……そういう考え方もありますね」 「で、俺にはアレ、くれないのか?」  男は「アレ」と、サスケが手にしている、今青年から受け取ったばかりのサンタクローズの小さな編みぐるみを指差す。 「……欲しいんですか」 「ああ。ハヤテがくれるものなら、何でも」 「困りましたね。アレは下忍の子達用にしか用意してないのに……」 「下忍? 何で。下忍っつったってコイツ等みたいなガキばかりじゃねぇんだぜ? 俺達より年上の奴もいるんだぜ?」 「ですから、下はともかく、上はコムギくんやイナホさん達のように私と同い年の方までです」 「ふうん。じゃ、29で特別上忍の俺にはくれないってワケか」 「そうです。今日は物分りが良いですね」 「…………バカにしてんのか」 「ええ。やっぱり物分りが良いですね」 「怒るぞ」 「もう怒ってるじゃないですか」 「…………」 「でも、怒っていてもやっぱりゲンマさんはカッコイイですよね」  にっこりと、この上ない笑顔で、黒髪の青年・ハヤテは銀髪の男・ゲンマにそう言う。  するとその途端、怒っていたゲンマは嬉しそうに顔をぐしゃっと崩す。 「そおかぁ〜?」 「ええ」  鼻の下を伸ばしているゲンマに、ハヤテは相変わらずにっこりと微笑んでいる。 「じゃ、行くか」 「ハイ。本当に扱いやすいですね」 「……ん? 今、何か言ったか?」 「いえ。行きましょう」 「……お、おう……」  小首を傾げながらも、ゲンマはハヤテと手を繋ぎ、歩き出した。  数歩歩いたところで、再び何かに気付いたようにハヤテは振り返った。  その瞬間、サスケはハヤテと目が合った。  すると、ハヤテはにっこりとサスケに向かって微笑んだ。 「任務、頑張って下さいね」  それだけ言うと、前を向いた。  あの人は、あの男のもの。  俺のものではない。  自分以外の者の、もの。  手に入れたいのだろうか。  それは――――  自分以外の者の、ものだからか。  それとも――――  惚れてしまったからだろうか。  ポケットに入れた黒い羽を取り出してみた。  多分、ハヤテの周りにいた鴉達の中の一羽のものだろう。  匂いを嗅いでみたが、何も匂わなかった。  じっとその羽を見詰めていると、ふと視線を感じた。  チャクラの大きさからして、多分上忍。  それも、かなり強大である。  恐らく、カカシ並みに……。  振り返って見ると。  其処には、大木に隠れている男がいた。  カカシではない。  いや、木の葉の忍でもないようだ。  砂の額当てをしている。  多分、我愛羅達砂の三兄弟の担当上忍だろう。  サスケは、その男の名を知らない。  砂の額当てを巻き、顔の左側を布で隠してる大柄な男。  何故かはわからないが、大きな花束を持っている。  ハヤテとゲンマが去って行った方向を見詰めている。  そして、手にしている花束をぎゅっと握り締めているようだ。  な、何だ、あの男は……  サスケがじっとその男を見ていると、視線に気が付いたのか、その男もサスケの方を向いてきた。  だが、男はサスケと目が合うと、すぐに瞬身の術で姿を消した。 「さあてと、何処行く?」 「ゲンマさんと一緒なら、何処でも」 「可愛い事言うようになったなぁ、お前も。なあ、紫苑?」  鼻の下を伸ばしながらゲンマは、ハヤテの腕の中にいる紫苑を撫でた。  ゲンマに撫でられると、ハヤテの腕の中の紫苑は幸せそうににゃあと高く鳴いた。   「お前も可愛い、可愛い」 「紫苑の頭は撫でるのに、私の頭は撫でてくれないんですか」  腕で抱いている仔猫に嫉妬しているのか、拗ねているようなハヤテはゲンマを上目遣いに見詰める。 「……撫でて欲しいのか?」 「ええ、勿論」 「よしよし。いい子いい子」  まるで幼い子供にするように、ゲンマはハヤテの頭を撫でてやる。  すると、満足したようにハヤテはにっこりと笑った。 「……ほんっと、可愛いな……」 「鼻の下のばさないで下さいね。情けない顔になりますから」 「……うるせぇ」  自分の鼻の下と口を押さえながら、ゲンマはハヤテの手を引っ張る。  二人が肩を並べて暫く歩いていると。  不意に、ハヤテがゲンマの背中に抱き付くように、後ろに隠れた。 「ん? どうした?」  ゲンマの背中を掴んでいるハヤテの手は、少し震えていた。  その震えを見て、ゲンマは何か尋常ではないものを感じた。 「……大丈夫だって。俺が、守ってやるから」  ゲンマが、ハヤテに向かってにっこりと微笑むと、ハヤテも少し安心したように微かに微笑んだ。  と、その時だった。  二人の進行方向に、一人の大柄な男が立ち塞がった。  砂の額当てをし、顔の左側を布で隠している。  そして、大きな花束を持っている。 「…………何か用か?」  ゲンマは、その男を睨みながらそう尋ねた。 「お前には用は無い」 「……用があるのはハヤテだけ……というわけか?」 「わかってるなら、大人しく引いて貰おうか」 「ふざけるのは顔だけにしろ」 「俺はふざけてなどいない。顔もふざけていない。ふざけているのは千本を銜えているお前だろうが」 「んだと、てめぇ」  ギロリと、ゲンマはその男を睨んだ。 「俺は別に争いに来たわけじゃない」  ゲンマに睨まれても、男は顔色一つ変えない。 「砂の忍服着ておいてよく言うぜ。しかも殺気プンプン放ちながら」 「……ハヤテ」  ゲンマから視線を逸らしながら、男はゲンマの背後で隠れているハヤテに声をかけた。 「ハヤテ。これを、受け取って欲しい」  そう言いながら、男は手にしている大きな花束を差し出してきた。 「女じゃあるまいし。花束貰って男が喜ぶかっつーの」 「黙れ」  男は、ギロリとゲンマを睨む。  睨まれたゲンマは、戦くわけでもなく、男を睨み返す。  上忍と特別上忍の殺気が、ぶつかり合っていた。 「ハヤテ」  ハヤテの名を呼びながら、花束を手にしている男は一歩、近付いてきた。  その途端、ゲンマの袖を掴んでいるハヤテの手の力が強まった。 「ハヤテはお前なんかから花束貰いたくねぇってよ。消えろ」 「消えるのは、お前の方だ。今すぐ、お前を消してやってもいいんだぞ?」 「お前ごときが、消せるもんなら消してみろ。その代わり、お前はハヤテに一生恨まれるだろうけどな」 「…ぐ………っ」  もっともな事を言われ、男はゲンマを睨む。 「悪いけど、俺達急いでんだよ。どけよ」 「とてもじゃないが、急いでいるようには見えないがな?」 「アンタと付き合う程、俺達は暇じゃねぇんだよ」 「俺……達?」 「ああ。俺達は二人で一つ。一心同体なんだよ。なあ、ハヤテ?」  にこっと笑顔をハヤテに向けながら、ゲンマは訊ねる。  その笑顔を見て、少し安心したようにハヤテも微かに微笑み、頷いた。 「ほら、あの男に言ってやれよ。花束なんかいらねぇって。ついでに消えろとも言ってやれ」 「……え。あ、はい……」  ゲンマに言われ、ハヤテは顔を上げて漸く男の顔を見た。  ハヤテと目が合った瞬間、男は少し顔を赤くする。  ぎゅっと、ゲンマの腕を掴みながら、ハヤテはキッとその男を睨んだ。  ハヤテに睨まれた男は、少し戦いた。  ハヤテが口を開こうとした、その時だった。  紫苑が、飛び出した。  ハヤテと男の間に飛び出し、男に向かって威嚇している。 「紫苑……」  今まで誰にも向けた事が無いぐらいの威嚇を、紫苑は男に向かってしている。  主人を守ろうとしているのか。  だが、紫苑はまだ小さな仔猫。  あまり、大柄な男に対しては効果が無いように思えた。 「…………紫苑。ソレは食べ物ではありません」  …………  …………  「ソレ」?  「ソレ」……って……もしかして……いや、もしかしなくとも……  俺の事か!?  ハヤテのその言葉に、男はかなり傷付いていた。  その事に気付いたゲンマは、今にも吹き出しそうになっているのを堪えていた。  ゲンマが今にも吹き出しそうになっている事に気付いた男は、ギロリと先程より殺気をこめてゲンマを睨んだ。 「ソレは敵です。やってしまいなさい」  ゲンマと男が再び睨み合おうとした瞬間、ハヤテは足元にいる紫苑にそう言った。  その瞬間、紫苑は男に襲い掛かっていった。  露になっている右目を狙っているようだ。 「…………紫苑って、まだ仔猫だし、どう見ても戦闘タイプじゃなさそうなんだけど……」  果敢にも大柄の男に襲い掛かっている黒い仔猫を見て、ゲンマは隣にいるハヤテにそう耳打ちした。 「大丈夫です。ホラ」  可笑しいものを見ているような言い方で、ハヤテはそう言う。  そして、前方向を指差している。  ハヤテが指差している方向をゲンマが見てみると、仔猫に襲われて慌てている男がいた。 「アレは、猫が嫌いなんです」  「アレ」とは、今紫苑に襲われている大柄な男の事だろう。  そう言いながら、ハヤテはくすくすと笑っている。  ゲンマが今まで見た事が無い笑顔だった。  それに、  ゲンマが今まで聞いた事が無い笑い方だった。  どう見ても、どう聴いても、腹黒い笑顔だった。 「砂最強の忍が、あんな小さな仔猫に襲われて泣きそうになってるんですよ? 可笑しいじゃないですか」 「……は、はあ………」 「紫苑。ソレの片付けが終ったら家に帰ってきなさい」  男の襲い掛かっている紫苑に向かって、ハヤテは優しく言った。  すると、男に襲い掛かっている最中でも、返事をするように紫苑はにゃあと鳴いた。  その返事を聞いて、ハヤテとゲンマは手を繋いでその場から去ろうとした。  すると。 「ちょ、ちょっと待て……! ハヤテ……! 花束を……う、受け……取って……くれ………」  紫苑からの攻撃を何とか避けながら、男は慌ててそう言う。 「嫌です」  振り返りもせずに、ハヤテは答える。  答えてやるだけ有り難く思え。  そう言っているような背中だった。 「お前の為に……か、買って……来たんだ………」 「知るか」 「……だ、誰よりも……あ、あい、愛してる…………」 「キモイんだよ。いっそこの世から消えろ」 「…………は、はや…………」 「馴れ馴れしく呼ぶな。ハヤテ様と呼びなさいと何度言ったらわかるんですか」 「……は、はや、ハヤテ様………」 「うわ、ホントに呼んだよ、この人」  その時漸く、ハヤテは振り返って男を見た。  軽蔑するような、冷淡な目で。  まるで、汚いものを見るような目だった。 「さ、行きましょう。ゲンマさん」  男に対しての態度とは全く違う優しげで可愛らしい笑顔をゲンマに向けながら、ハヤテはそう言う。 「あ、はい……」  ハヤテに手を引かれ、ゲンマは思わず敬語で答えていた。  そんなゲンマに、ハヤテはくすりと微笑んだ。  一部始終を隠れて見ていたサスケは、ただただ、驚きを隠せなかった。  あんな優しげな笑顔を向けてきた人物の、男に対する態度に。 +++Merry Christmas!!+++ 〜終〜