+++ 砂にて +++ 「此処が砂隠れの里……」 「何処見ても砂漠だらけだってばよ」 「そりゃー、“砂”隠れの里だからな」  サクラ、ナルト、カカシ達カカシ班の班員が、無事砂隠れの里に到着した。  砂隠れの風影である我愛羅が、「暁」という組織に連れ去られ、 五代目火影・綱手の命によりカカシ班が砂の状況把握と支援の為、この里にやって来たのだ。 「こっちだと」  初めて来る砂隠れの里を、物珍しそうに物見遊山しているナルトとサクラの二人に、 カカシは案内役の砂忍の後をついて行くよう指示する。  丸型の建物の中に案内されたナルト達。  通された部屋の中には、数人の砂忍達がいた。  用意された席に、それぞれ着く。 「お茶です」  と、不意にナルト達の前にお茶が差し出された。  ソーサラーに乗せられたティーカップの中には、輪切りにされたレモンが浮かんだ紅茶が入っている。  ナルト達にお茶を差し出してきた人物は、ナルト達木の葉の忍達だけではなく、砂忍にも差し出している。  ずっと手渡された書類に目を通していたカカシは、顔を上げて紅茶を差し出してきた人物をチラリと見てみた。  その人物は、部屋の中にいる全員にお茶を配り終わったらしく、 お茶を乗せていたトレイを小脇に抱え、部屋から出て行こうとしている。  この部屋の中にいる砂忍達は皆忍服を着ているのに、その人物だけ群青の浴衣を着ていた。  額当てもしていない。  今時の若い忍なら、忍服や額当てをしていない忍も多いだろう。  それだけなら、別に気に留める事など無い。  だが、カカシには何かが気になって仕方無かった。  女かと見間違えそうな細い身体に、少し長めの黒髪。  だが、身長からして女には見えなかった。  それに、あの声……。  何処かで聞いた事あるんだよな……  と、カカシが頭を抱えていると、再びその人物が姿を見せた。  先程までは紅茶を載せていたトレイの上に、底が深い器を載せて部屋に入って来たのだ。 「お茶請けです」  と、その器をカカシ達の前にトン、と置く。  その器の中には様々な形をしたクッキーが入っている。 「……は、ハヤテ!?」  カカシは、紅茶とお茶請けを持ってきた、群青の浴衣に身を包んでいる細身で黒髪の青年の名を叫んだ。  クッキーに手を伸ばしかけていたナルトは、そんなカカシの大声に身を縮めた。 「は、ハヤテじゃないか……。な、何で此処にいるんだ……!?」  カカシは席から立ち上がり、青年を指差しながら、その青年に近付いていく。  カカシにハヤテと呼ばれた青年は、カカシが何を言っているのかわからないように小首を傾げた。  だが、すぐに何かに気付いたように、手にしているトレイを振り翳し、 自分のすぐそばの席に腰掛けている砂忍の頭上に振り下ろした。  ゴン、という鈍い音が部屋の中に響いた。 「い……っ何をする!?」  青年にトレイで頭を殴られた、顔の左側を布で隠している悪人面の砂忍は、 席から立ち上がりながら殴られた頭を押さえる。 「何でこの人、私の名前を知ってるんですか」  青年は不満そうに、その砂忍に向かってそう言いながらカカシを指差す。 「私がいない間にアンタ……私の事を紹介したんじゃないでしょうね!?」 「誰がするか。そんな暇など無い。それに紹介するのなら、俺の愛する妻だと紹介す……」  すると又、青年は手にしているトレイをその砂忍の頭に振り下ろした。  再び、ゴン、という鈍い音がした。  気の所為か、さっきよりも大きな音だった。 「何寝惚けた事ほざいてんだ、このタコ! シバくぞゴルァ!!」  胸倉を掴み、ヤクザ顔負けの迫力で砂忍に迫る青年。   「す、すみません……、少し、調子に乗りました……」 「わかれば宜しい」  すると青年は、掴んでいる砂忍の胸倉を離した。 「バキさんは、ハヤテさんには頭が上がらないんですよ……。極力、その事には触れないようにして下さいね……」  カカシのすぐ傍にいる若い砂忍が、こっそりとカカシにそう耳打ちする。  何か、可笑しい事を言っているようだ。 「あの二人、何なの?」  カカシは、その砂忍にコッソリとそう訊ねる。 「えっと……ハヤテさんは、確か……2、3年ぐらい前にバキさんが何処かから連れ帰って来た人でして。  僕達はハヤテさんが何処の誰なのかは存じませんがね。  まぁ、一つ確かなのはバキさんはハヤテさんを誰よりも愛していて、  ハヤテさんはバキさんをただの奴隷か下僕としてしか見ていない、という事ですね」 「ふ、ふうん……」 「ところで、ハヤテさんの事、ご存知なんですか? まさか、ハヤテさんって……木の葉の忍なんですか?」 「ん……まぁ……」 「ああ、やっぱりねぇ」 「やっぱりって? 何処の誰だか知らないんじゃないの?」 「だって何でだか知らないけどハヤテさん、木の葉の忍服持ってますもん。  額あても。それに……ハヤテさんの技、三日月の舞だって“木の葉流”って言ってましたし」  其処まで知っているのなら何故「木の葉の忍」だと気付かないんだコヤツ等は……。  カカシは、そんな目を目の前にいる砂忍に向ける。 「木の葉の忍服は、ずっとバキさんがハヤテさんにコスプレさせてるのかと思ってたんですけどね」 「コスプレ……」 「だってあの人、そう言う系統のモノ、好きそうな顔してるじゃないですか」 「……確かに」 「コマザ……余計な事は言わなくていい」 「はっ、ハイ……ッ」  上司らしい、その砂忍に殺気立って言われ、コマザと呼ばれたその砂忍はビクッと反応した。 「でもコマザくんが言っている事は全て当たってますよね。アンタの持ってるAV、コスプレものばかりじゃないですか」  ニヤニヤと可笑しいものを眺めているように、ハヤテは揶揄するようにバキに言う。 「何故お前がそんな事を知ってる!?」 「アンタの弱みなら何でも知ってますよ」  再び、ニヤ〜とした腹黒い笑顔を、ハヤテはバキに向ける。 「何処で見付けたんだ……ちゃんと隠しておいたのに……」 「アレで隠したつもりなんですか。バレバレでしたよ」  ハヤテの奴、この2、3年で確実に変わったな、人柄が……  何があったんだ、この砂で……  絶対、腹黒く凶暴になってる……  バキとやり合っているハヤテを見ながら、カカシはそんな事をぼんやりと思った。  「砂の実力者であるバキを奴隷か下僕としか見ていない」と言うコマザの言葉は全く間違っていない。  でも、もしかして……俺の事、忘れちゃった? 「我愛羅くんが連れ去られたんですよ? 会議なんかしてないでさっさと助けに行きなさいよ。  事件は会議室で起きてるんじゃ無いんです。現場で起きてるんです」 「何処かで聞いた事があるような台詞だな……」 「わかってんならさっさと行け!」  ガン、とバキが座っている椅子を思い切り蹴飛ばしながら、再びヤクザ顔負けの迫力で迫るハヤテ。  仕方無いな……と言うようにバキは椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとする。  その後に付いて行くように、他の砂忍達も椅子に腰掛けている者は立ち上がり、  立っている者はそのまま部屋の外へ出て行った。  だが、部屋から出て行こうとしたバキは、先程カカシと会話していた一人の若い砂忍に顔を向けた。 「コマザ班とネジリ班は里に残れ。他は出動だ」 「は、はい……」「はっ」  バキに名を呼ばれた二人の若い砂忍は返事した。 「何でコマザくんとネジリくんの班は残るんですか」  そのまま部屋から出て行こうとするバキに、ハヤテは腕組みしながらそう訊ねた。 「全員出動するわけにはいかない事ぐらい、わかるだろう」 「そりゃそうですけど。じゃ、久々に私も相手をブッタ斬る事が出来るんですね」  と、何だか楽しげにハヤテは愛用の刀を持ち出した。 「いや。お前はコマザ班、ネジリ班と共に此処に残れ」 「………何でですか」 「お前を、危険な目に遭わせる訳にはいかない」  いつに無く、真顔でそう言う。 「はあ?」 「お前が怪我でもしたら大変だろう」 「……足手纏いだから来るな、とハッキリ言ったらどうですか」 「何故そう言う発想になる? お前を足手纏いと思った事は一度も無い。  第一、お前は充分強い。少なくとも、ネジリやコマザよりは強いだろう」 「じゃあ何で……」 「お前を危険な目に遭わせる訳にはいかない、と今言っただろう。それに、お前は……砂の忍じゃあ無い」 「…………」  バキのその言葉を聞いた途端、カチンときたらしくハヤテはギロリとバキを睨んだ。  その睨み方があまりにも殺気立っていたからか、砂の実力者も少々戦いた。  だが、すぐにハヤテは俯き溜め息を深々とつくと。 「わかりましたよ。じゃあさっさと行きなさい」 「ああ。だが、その前に……」 「ん?」  不意に、バキはハヤテの両肩を優しく掴んだ。 「我愛羅をも倒すような奴等だ。無事に帰って来れるよう、勝利の女神の口づけを……」 「さっさと行け!!」  バキのその言葉に、彼の足を思い切り蹴飛ばす。 「勝利の女神の……」 「誰が女神じゃァァァ!! 殺すぞ!!」  と、ハヤテはやはりヤクザ顔負けの迫力で手にしている刀を鞘から出そうとした。 「う……。わ、わかった……行って来る」 「お土産」 「敵の首でも討ち取ってきてやる」 「楽しみにしてますね」  にっこりとした(腹黒い)笑顔を向けた。 「アンタも大変だねぇ……」  カカシは、揶揄しているというよりは心底同情しているような言い方で、バキにそう言う。 「余計なお世話だ」 「俺もわかるんだよねー。普段可愛いのに、あ、笑ったらもっと可愛いんだけど、怒ったら恐い妻を持つとさ」 「つ、妻……?」 「んー、怒ってても可愛いんだけど、怒らせると恐いし、でも怒った可愛い顔も見てみたいという気持ちもあって……  こう、自分の中で葛藤が起こるわけよ。でもその葛藤もまた良くて……」 「…………」 「結局、機嫌取るのにプレゼント送るから出費も嵩むわけで……」 「……何の話をしてるんだ?」 「ま、お互い大変だねぇという事。可愛くて恐ろしい妻を持つと」  と、カカシは何だか楽しげにバキの方をポン、と叩いた。 「妻……そう見えるのか?」 「んーん。全然。ハヤテはアンタの事、どう見ても奴隷か下僕としか見てなかったじゃん」 「…………やはり、そうか…………俺は下僕か………………」  カカシの言葉に、バキは落ち込むように肩を落とした。 「あまり、バキさんを落ち込ませるような事言わないで下さいよっ」  バキには聞こえないように、コマザとは違う砂忍がカカシに慌ててそう言った。 「あ……スミマセン」 「カカシ先生の“妻”ってやっぱイルカ先生?」  そうカカシに訊ねたのは、ナルトだ。 「当たり前でしょ。じゃなかったら他に誰がいるのよ」 「……俺がいない間に、やっと入籍したのかと思ったんだってばよー」 「あ。そういえば……あれ? でも、カカシ先生とイルカ先生、入籍したの?」  サクラが訊ねる。 「この間婚姻届渡したら、『ナルトが帰って来たら考えますね』とかって  言ってきたんだよなー。……考えてくれたかな?」 「おおッ!?」 「この任務が終ったらまたプロポーズするかな♪」  カカシは、楽しげにそう呟く。  木の葉の奴等は気楽でいいな……と、バキは考えていた。 〜終〜